【楞厳経】巻八
菩薩修行の段階
乾慧地
アーナンダよ! この善人は情欲がすでに枯渇し、根と塵の対立が消え、過去の悪い習性もすでに断ち切られた。
阿難! 是善男子,欲愛乾枯,根境不偶,現前殘質不復續生。[SG0802001]
心が空で清明となり、ただ智慧のみがある。その智慧が円明で、十方の世界を照らしている。
執心虛明,純是智慧。慧性明圓,瑩十方界。[SG0802002]
この情欲が乾き、智慧のみがある境地は『乾慧地』と称される。
乾有其慧,名乾慧地。[SG0802003]
十信
情欲と悪い習性が乾いたばかりで、心はなお如来の法性(真如の性)の流れに通じていない。
欲習初乾,未與如來法流水接。[SG0802004]
心を一歩ずつ法性の海に溶け込ませ、そして円妙の真性が徐々に現れる。
即以此心中中流入,圓妙開敷。[SG0802005]
一歩ずつこの円妙の真性を恢復し、常に信心を喚起して動揺しない。
從真妙圓,重發真妙,妙信常住。[SG0802006]
すべての妄想が消滅し、中道に入り、虚妄がない。
一切妄想滅盡無餘,中道純真,[SG0802007]
この境地は『信心住』と称される。
名信心住。[SG0802008]
信心が堅固となり、身心が円通の境地に達し、五陰・十二処・十八界にとらわれない。
真信明了一切圓通,陰、處、界三不能為礙。[SG0802009]
過去と未来の無数の劫にわたる生死輪廻、またあらゆる習性が目の前に現れる。
如是乃至過去、未來無數劫中,捨身、受身一切習氣,皆現在前,[SG0802010]
忘れることがなく、すべてを思い返すことができる。
是善男子皆能憶念,得無遺忘,[SG0802011]
この境地は『念心住』と称される。
名念心住。[SG0802012]
円妙で純真な心の真性が覚醒し、無始以来の習気が一つの精明の智慧へと転じた。
妙圓純真,真精發化,無始習氣通一精明,[SG0802013]
この智慧を起こして真の清浄の境地に進む。
唯以精明進趣真淨,[SG0802014]
この境地は『精進心』と称される。
名精進心。[SG0802015]
心の真性が現れ出て、智慧が純正となった。
心精現前,純以智慧,[SG0802016]
この境地は『慧心住』と称される。
名慧心住。[SG0802017]
智慧は静寂で、いつでも現れ、遍く行き渡る。
執持智明,周遍寂湛,寂妙常凝,[SG0802018]
この境地は『定心住』と称される。
名定心住。[SG0802019]
心が落ち着いて発光し、その光明の性に深く入り、ただ前進するのみで退くことがない。
定光發明,明性深入,唯進無退,[SG0802020]
この境地は『不退心』と称される。
名不退心。[SG0802021]
退くことなく前進し、その心が穏やかになって如来の法性の流れに通じた。
心進安然,保持不失,十方如來氣分交接,[SG0802022]
この境地は『護法心』と称される。
名護法心。[SG0802023]
心の洞察の光を保ち、その光を如来の慈悲の光に溶け込ませる。
覺明保持,能以妙力迴佛慈光,向佛安住。[SG0802024]
二つの鏡が向き合うように、光が重なって交錯している。
猶如雙鏡光明相對,其中妙影重重相入,[SG0802025]
この境地は『廻向心』と称される。
名迴向心。[SG0802026]
心の明かりが常に如来の慈悲の光に密に溶け込む。如来の常住の無上妙浄の境地に至った。
心光密迴,獲佛常凝無上妙淨,[SG0802027]
退くことがなく、この無為の境地に安住する。
安住無為得無遺失,[SG0802028]
この境地は『戒心住』と称される。
名戒心住。[SG0802029]
自在に戒を守り、意のままに十方の世界に遊ぶことができる。
住戒自在,能遊十方,所去隨願,[SG0802030]
この境地は『願心住』と称される。
名願心住。[SG0802031]
十住
アーナンダよ! 菩薩は真の方便によってこの十種の心を発する。
阿難! 是善男子,以真方便發此十心。[SG0802032]
心の真性を発揮し、十種の心が融合して一つの心となった。
心精發揮,十用涉入,圓成一心,[SG0802033]
この境地は『発心住』と称される。
名發心住。[SG0802034]
智慧は心から出て、瑠璃の中にある黄金の如し。
心中發明,如淨瑠璃內現精金,[SG0802035]
先に得た種々の妙なる心を、これからの修行の基盤とする。
以前妙心履以成地,[SG0802036]
この境地は『治地住』と称される。
名治地住。[SG0802037]
智慧がはっきりと現れ、自在に十方の世界に遊んで執着がない。
心地涉知,俱得明了,遊履十方得無留礙,[SG0802038]
この境地は『修行住』と称される。
名修行住。[SG0802039]
如来の影響を受け、行いが如来と同様である。
行與佛同,受佛氣分,[SG0802040]
中陰の身(死んでから次の生を受けるまでの魂)が縁に従って父母を選ぶように、菩薩は如来の品性に合うゆえ、如来の種姓に転生する(聖道に入る)。
如中陰身自求父母,陰信冥通入如來種,[SG0802041]
この境地は『生貴住』と称される。
名生貴住。[SG0802042]
胎児がすでに人の相を備え、如来の血統を引いた。
既遊道胎,親奉覺胤,如胎已成人相不缺,[SG0802043]
この境地は『方便具足住』と称される。
名方便具足住。[SG0802044]
容貌も心も如来のようである。
容貌如佛,心相亦同,[SG0802045]
この境地は『正心住』と称される。
名正心住。[SG0802046]
身心は日に日に成長していく。
身心合成,日益增長,[SG0802047]
この境地は『不退住』と称される。
名不退住。[SG0802048]
如来の十身(菩提身・法身・威勢身・相好荘厳身・智身・願身・化身・力持身・意生身・福徳身)がすっかり備わっている。
十身靈相一時具足,[SG0802049]
この境地は『童真住』と称される。
名童真住。[SG0802050]
胎児は成熟して胎内から出て、如来の子として誕生する。
形成出胎,親為佛子,[SG0802051]
この境地は『法王子住』と称される。
名法王子住。[SG0802052]
たとえば、太子が成人した後、国王は種々の国事を太子に委ねるように、
表以成人,如國大王以諸國事分委太子。[SG0802053]
刹利王の太子が成人し、灌頂の儀式(海水を頭に注ぐ王位継承の儀式)を受ける。
彼剎利王世子長成,陳列灌頂,[SG0802054]
この境地は『灌頂住』と称される。
名灌頂住。[SG0802055]
十行
アーナンダよ! 菩薩が如来の子となった後、如来の無量のすぐれた功徳が備わっている。
阿難! 是善男子,成佛子已,具足無量如來妙德,[SG0802056]
自在に十方の世界に赴いて衆生を済度することができる。
十方隨順,[SG0802057]
この境地は『歓喜行』と称される。
名歡喜行。[SG0802058]
よく衆生に利益をもたらす。
善能利益一切眾生,[SG0802059]
この境地は『饒益行』と称される。
名饒益行。[SG0802060]
自分のみならず、他の衆生も正覚へ導き、嫌うことがない。
自覺覺他得無違拒,[SG0802061]
この境地は『無瞋恨行』と称される。
名無嗔恨行。[SG0802062]
永遠に十方の十二類の衆生を平等に済度し続ける。
種類出生,窮未來際,三世平等、十方通達,[SG0802063]
この境地は『無尽行』と称される。
名無盡行。[SG0802064]
衆生に応じて最適な仏法を説き、誤りがない。
一切合同,種種法門得無差誤,[SG0802065]
この境地は『離痴乱行』と称される。
名離癡亂行。[SG0802066]
同一の法性からさまざまな変化を現すことができ、
則於同中顯現群異,[SG0802067]
また、さまざまな変化から同一の法性を示すこともできる。
一一異相各各見同,[SG0802068]
この境地は『善現行』と称される。
名善現行。[SG0802069]
十方のすべての微塵の中に十方の世界を現すことができ、
如是乃至十方虛空滿足微塵,一一塵中現十方界;[SG0802070]
しかも、塵も世界も、互いに妨げることがない。
現塵、現界不相留礙,[SG0802071]
この境地は『無着行』と称される。
名無著行。[SG0802072]
現す種々の変化はすべて、衆生を彼岸へ導く第一の法である。
種種現前,咸是第一波羅蜜多,[SG0802073]
この境地は『尊重行』と称される。
名尊重行。[SG0802074]
このように種々の変化を円満に利用して法輪を転じることができる。
如是圓融,能成十方諸佛軌則,[SG0802075]
この境地は『善法行』と称される。
名善法行。[SG0802076]
すべての済度は清浄・無漏・無為の真性に従って行われる。
一一皆是清淨無漏,一真無為,性本然故,[SG0802077]
この境地は『真実行』と称される。
名真實行。[SG0802078]
十廻向
アーナンダよ! 菩薩は仏事(衆生を済度すること)を成就し、神通の力が円満に至り、
阿難! 是善男子,滿足神通、成佛事已,[SG0802079]
心は清浄で、純真で、相にとらわれることがない。
純潔精真,遠諸留患,[SG0802080]
衆生を済度するが、済度の相を離れている。
當度眾生、滅除度相,[SG0802081]
無為の心を転じて涅槃の道へと向けて進む。
迴無為心向涅槃路,[SG0802082]
この境地は『救護一切衆生離衆生相廻向』と称される。
名救護一切眾生離眾生相迴向。[SG0802083]
破壊できる相をすべて破壊し、離れるべきものをすべて離れ、さらに離れることさえも離れる。
壞其可壞,遠離諸離,[SG0802084]
この境地は『不壊廻向』と称される。
名不壞迴向。[SG0802085]
湛然な本覚の心が現れ、その心は如来の正覚に等しい。
本覺湛然,覺齊佛覺,[SG0802086]
この境地は『等一切仏廻向』と称される。
名等一切佛迴向。[SG0802087]
真性がはっきりと現れ、遍く仏国へ赴いて仏事をする。
精真發明,地如佛地,[SG0802088]
この境地は『至一切処廻向』と称される。
名至一切處迴向。[SG0802089]
世界と真如の性の区別が消滅した。
世界如來互相涉入,得無罣礙,[SG0802090]
この境地は『無尽功徳蔵廻向』と称される。
名無盡功德藏迴向。[SG0802091]
世間のすべてが真如と同じく清浄であると悟り、
於同佛地,地中各各生清淨因,[SG0802092]
この平等の心を抱いて涅槃へ進む。
依因發揮取涅槃道,[SG0802093]
この境地は『随順平等善根廻向』と称される。
名隨順平等善根迴向。[SG0802094]
真性を悟ったゆえ、十方の衆生と自分の真性が本来一体であると知る。
真根既成,十方眾生皆我本性,[SG0802095]
すべての衆生を済度してこの真性を成就させようとする。
性圓成就不失眾生,[SG0802096]
この境地は『随順等観一切衆生廻向』と称される。
名隨順等觀一切眾生迴向。[SG0802097]
すべての相から離れつつ、すべての法を認識する。認識にも、離れることにも執着しない。
即一切法離一切相,唯即與離二無所著,[SG0802098]
この境地は『真如相廻向』と称される。
名真如相迴向。[SG0802099]
真如と一体になり、何の障りもない。
真得所如,十方無礙,[SG0802100]
この境地は『無縛解脱廻向』と称される。
名無縛解脫迴向。[SG0802101]
真性が円満に現れ、法界はすべてこの真性に溶け込んだ。
性德圓成,法界量滅,[SG0802102]
この境地は『法界無量廻向』と称される。
名法界無量迴向。[SG0802103]
四加行
アーナンダよ! 菩薩が以上の清浄の四十一心を達成した後、
阿難! 是善男子,盡是清淨四十一心,[SG0802104]
次に四種の円妙な加行(境地を強固にする修行)を修める。
次成四種妙圓加行。[SG0802105]
如来の正覚の心を自分の心としようとするが、火を鑽ろうとして火が出るか出ないかのように、如来の心が現れるとも現れざるともつかない。
即以佛覺用為己心,若出未出,猶如鑽火欲然其木,[SG0802106]
この境地は『煖地』と称される。
名為煖地。[SG0802107]
自分の心を如来の境地としようとするが、この心に依っているとも依っていないともつかない。
又以己心成佛所履,若依非依,[SG0802108]
まるで山頂に立つ時、身が虚空に入りながら、足がなお地と接触するのを覚えるような感じである。
如登高山,身入虛空,下有微礙,[SG0802109]
この境地は『頂地』と称される。
名為頂地。[SG0802110]
心は如来の心に等しく、よく中道の境地に安住する。
心佛二同,善得中道,[SG0802111]
しかし、喉まで出かかるような状態であり、この心を持つとも持たぬともつかない。
如忍事人非懷非出,[SG0802112]
この境地は『忍地』と称される。
名為忍地。[SG0802113]
時間と空間という認知は消滅し、迷いも覚悟も中道も消滅した。
數量銷滅,迷覺中道二無所目,[SG0802114]
この境地は『世第一地』と称される。
名世第一地。[SG0802115]
十地
アーナンダよ! 菩薩は大覚悟の境地に達し、如来の境地に通じた。
阿難! 是善男子,於大菩提善得通達,覺通如來盡佛境界,[SG0802116]
この境地は『歓喜地』と称される。
名歡喜地。[SG0802117]
相異の性は同一の性に入り、さらに、その同一の性さえも消滅した。
異性入同,同性亦滅,[SG0802118]
この境地は『離垢地』と称される。
名離垢地。[SG0802119]
心は清浄の極致に達し、光明を発する。
淨極明生,[SG0802120]
この境地は『発光地』と称される。
名發光地。[SG0802121]
明かりは極致に達し、智慧は円満となった。
明極覺滿,[SG0802122]
この境地は『焔慧地』と称される。
名焰慧地。[SG0802123]
すべての同異の性はこの境地に及びえない。
一切同異所不能至,[SG0802124]
この境地は『難勝地』と称される。
名難勝地。[SG0802125]
無為の境地に安住し、真如の清浄の性がはっきりと現れる。
無為真如性淨明露,[SG0802126]
この境地は『現前地』と称される。
名現前地。[SG0802127]
真如の性は、遍く行き渡る。
盡真如際,[SG0802128]
この境地は『遠行地』と称される。
名遠行地。[SG0802129]
真如の心以外何もない。
一真如心,[SG0802130]
この境地は『不動地』と称される。
名不動地。[SG0802131]
真如の妙用を発揮する。
發真如用,[SG0802132]
この境地は『善慧地』と称される。
名善慧地。[SG0802133]
アーナンダよ! ここまでで、菩薩の修行は終わり、功徳が円満に至った。
阿難! 是諸菩薩,從此已往修習畢功,功德圓滿。[SG0802134]
この境地は別に『修習位』と称される。
亦目此地名修習位,[SG0802135]
慈悲の雲が出て涅槃の海を覆う(衆生を救済するために涅槃に入らないこと)。
慈陰妙雲覆涅槃海,[SG0802136]
この境地は『法雲地』と称される。
名法雲地。[SG0802137]
等覚
ついに菩薩は流れに沿って涅槃に至り、如来として流れに逆らって涅槃に入らない。
如來逆流,如是菩薩順行而至;覺際入交,[SG0802138]
この境地は『等覚』と称される。
名為等覺。[SG0802139]
アーナンダよ! 乾慧地から等覚に至るまで、すべては最初の円通の境地から始まるものだ。
阿難! 從乾慧心至等覺已,是覺始獲金剛心中初乾慧地。[SG0802140]
そこから十二の単・複(乾慧地・十信・十住・十行・十廻向・煖地・頂地・忍地・世第一地・十地・等覚・妙覚)の段階を登り、最終的には『妙覚』という無上の道を成就するのだ。
如是重重單複十二,方盡妙覺,成無上道。[SG0802141]
金剛の智慧によって十種の幻の譬え(一、一切の業は幻のようである。二、一切の法は陽炎のようである。三、一切の身は水に映る月のようである。四、美しい色は虚空のようである。五、美しい音は反響のようである。六、諸仏の国土は蜃気楼のようである。七、仏事は夢のようである。八、仏身は影のようである。九、報身は鏡に映る人のようである。十、法身は幻の変化のようである。)を観察し、
是種種地,皆以金剛觀察,如幻十種深喻,[SG0802142]
このように奢摩他に入り、如来の毘婆舎那(智慧によって観察すること)によって一歩ずつ各段階に深く入っていく。
奢摩他中,用諸如來毘婆舍那清淨修證,漸次深入。[SG0802143]
アーナンダよ! 五十五の真菩提の道はすべて、三つの漸次禁戒を基として成就される。
阿難! 如是皆以三增進故,善能成就五十五位真菩提路。[SG0802144]
このように実践して観察するのは、『正観』と呼ばれる。
作是觀者,名為正觀;[SG0802145]
そうでなければ『邪観』と呼ばれる。」
若他觀者,名為邪觀。」[SG0802146]
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