【楞厳経】巻四
世界と衆生の由来
その時、会衆の中でいるプールナ・マイトラーヤニープトラ(富楼那弥多羅尼子)尊者は席から立ち上がり、右肩をあらわにし、右膝を地につけ、恭しく合掌してお釈迦様に言いました。
爾時,富樓那彌多羅尼子在大眾中即從座起,偏袒右肩,右膝著地,合掌恭敬而白佛言:[SG0401001]
「大威徳が備わっておいでになる世尊様よ! 私たちに第一義の理をうまく説き明かしてくださいました。
「大威德世尊! 善為眾生敷演如來第一義諦。[SG0401002]
私が弟子の中で説法第一の者であると常に讃えてくださいます。
世尊常推說法人中我為第一,[SG0401003]
しかしいま、世尊様のすぐれた御法音を拝聴しましたが、それはまるで聾者が百歩離れた蚊の羽音を聞こうとするようで、
今聞如來微妙法音,猶如聾人逾百步外聆於蚊蚋,[SG0401004]
蚊の姿を見ることさえできず、ましてやその羽音を聞くことはできません。
本所不見,何況得聞? [SG0401005]
世尊様は私たちの疑惑を晴らすために、すでに明確にご解説になりましたが、私はまだその究極の理を十分に理解できかね、疑惑なき境地に達しておりません。
佛雖宣明令我除惑,今猶未詳斯義究竟無疑惑地。[SG0401006]
世尊様、アーナンダのような弟子はすでに悟りを開きましたが、過去の習性と煩悩がまだ残っています。
世尊! 如阿難輩,雖則開悟,習漏未除;[SG0401007]
一方、この大会にいる我ら無漏の境地に達した者は、すでに煩悩を断ち切り、いま世尊様のご説法を拝聴しましたが、まだ疑惑を抱いております。
我等會中登無漏者,雖盡諸漏,今聞如來所說法音,尚紆疑悔。[SG0401008]
世尊様。もし世間の一切の根(六根)・塵(六塵)・陰(五陰)・処(十二処)・界(十八界)が本来如来蔵の清浄な妙用であるならば、どうして山河や大地などの有為の相(生・住・異・滅があるもの)は急に出現したり、生滅したり、変化したりし続けているのでしょうか?
世尊! 若復世間一切根、塵、陰、處、界等皆如來藏清淨本然,云何忽生山河大地諸有為相,次第遷流,終而復始? [SG0401009]
また、世尊様はこうもおっしゃいました、『地・水・火・風の性は円融で、湛然で、常住で、法界に遍満します』と。
又如來說,地、水、火、風本性圓融、周遍法界,湛然常住,[SG0401010]
世尊様! もし地の性が遍満するならば、どうして水はたまることができるのでしょうか?
世尊! 若地性遍,云何容水? [SG0401011]
もし水の性が遍満するならば、火は起こりえないはずです。
水性周遍,火則不生。[SG0401012]
それに、水と火の二性が共に虚空に遍満するならば、どうして互いに打ち消し合うことはないのでしょうか?
復云何明水、火二性俱遍虛空不相𣣋滅? [SG0401013]
世尊様。地の性が障害であり、虚空の性が流通であり、どうして両者は共に法界に遍満できるのでしょうか? 私はこの道理を理解できかねます。
世尊! 地性障礙,空性虛通,云何二俱周遍法界? 而我不知是義攸往,[SG0401014]
世尊様、どうかご慈悲を! 私たちの疑惑をお晴らしください。」
唯願如來宣流大慈,開我迷雲,及諸大眾!」[SG0401015]
そう言い終えると、プールナはお釈迦様に五体投地をし、如来の無上の教えに期待していました。
作是語已,五體投地,欽渴如來無上慈誨。[SG0401016]
その時、お釈迦様はプールナ及び会衆の中の無漏・無学の阿羅漢に言いました。
爾時,世尊告富樓那及諸會中漏盡無學諸阿羅漢:[SG0401017]
「いまこの大会で勝義諦(究極的な最高の真理。第一義諦)の中の真勝義性(宇宙の絶対・唯一の実相)を広く説き明かそう。
「如來今日普為此會宣勝義中真勝義性,[SG0401018]
これを理解すれば、定性声聞(永遠に声聞の境地にとどまる者)の者、及び大乗を志し、なお二空(人空と法空)の境地に達していない阿羅漢のお前たちは、真の阿蘭若(修行に適する静かな場所)という上乗の寂滅(不生不滅・静寂・空の状態)の境地に達することができる。
令汝會中定性聲聞,及諸一切未得二空迴向上乘阿羅漢等,皆獲一乘寂滅場地、真阿練若正修行處。[SG0401019]
よく聴きなさい! いま、お前たちに説明してやろう。」
汝今諦聽! 當為汝說。」[SG0401020]
プールナなどの会衆は皆黙然としてお釈迦様の説法に聴き入りました。
富樓那等欽佛法音,默然承聽。[SG0401021]
お釈迦様:
佛言:[SG0401022]
「プールナよ! お前の言うとおり、如来蔵は本来清浄である。では、なぜ山河や大地などが急に出現するのか?
「富樓那! 如汝所言,『清淨本然,云何忽生山河大地?」[SG0401023]
聞いたことがあるか? 私は常に広く言った、『覚性が清明である』と。」
汝常不聞如來宣說性覺妙明,本覺明妙?」[SG0401024]
プールナ:
富樓那言:[SG0401025]
「はい、世尊様。私は常に世尊様からその教えを拝聴しました。」
「唯然,世尊! 我常聞佛宣說斯義。」[SG0401026]
お釈迦様:
佛言:[SG0401027]
「では、なぜ覚性が清明であると言うのか? それは覚性が清明の性質を有するからか? それとも清明の性質を有しないのか?」
「汝稱覺明,為復性明稱名為覺? 為覺不明稱為明覺?」[SG0401028]
プールナ:
富樓那言:[SG0401029]
「もし覚性が清明の性質を有しないならば、覚性は清明ではないものです。」
「若此不明名為覺者,則無所明。」[SG0401030]
お釈迦様:
佛言:[SG0401031]
「もし覚性が清明の性質を有しないならば、覚性は清明ではないものであると。
「若無所明,則無明覺。[SG0401032]
プールナよ! 何を有するものも覚性ではない。
有所非覺,[SG0401033]
清明の性質を有しないものは清明ではない。
無所非明,[SG0401034]
しかし、無明は本覚の明らかで湛然な本性ではない。
無明又非覺湛明性。[SG0401035]
よく聴きなさい! 覚性自身は本来清明である。
性覺必明,[SG0401036]
にわかに清明の印象を生じ、さらにこの印象を覚性に付け加える。
妄為明覺,覺非所明,[SG0401037]
この妄想のせいで清明な対象が生じ、対象があれば自他の対立も生じ、
因明立所,所既妄立,生汝妄能,[SG0401038]
それで、如来蔵の中には本来なかった相違の性が生じるのだ。
無同異中熾然成異。[SG0401039]
そして、それと対立する同一の性も生じ、
異彼所異,因異立同,[SG0401040]
さらに相違でも同一でもない性も生じる。
同異發明,因此復立無同無異。[SG0401041]
心はこのように種々の性質に乱され、その結果、清明な覚性は疲れすぎて混濁した。
如是擾亂相待生勞,勞久發塵自相渾濁,[SG0401042]
それから、さまざまな塵境・煩悩が起こり、世界はそれらのものによって成り立つ。
由是引起塵勞煩惱,起為世界。[SG0401043]
静寂の性は虚空となり、虚空は同一である。世界(塵境)は相違である。
靜成虛空,虛空為同,世界為異。[SG0401044]
同一でも相違でもないものは真の有為の法(衆生。虚空でも塵境でもないもの)である。
彼無同異真有為法。[SG0401045]
清明の印象は暗い虚空に朦朧と現れている。その結果、風輪という揺動の性は生起し、世界で作用を起こしている。
覺明、空昧相待成搖,故有風輪執持世界。[SG0401046]
そして、朦朧と現れている清明の印象は堅固になって揺動の性を妨げている。その結果、金輪という堅固の性が生起し、国土を維持している。
因空生搖,堅明立礙,彼金寶者明覺立堅,故有金輪保持國土。[SG0401047]
堅固の性が金剛となり、揺動の性が風となる。火という変化の性が両者の摩擦によって生じた。
堅覺寶成,搖明風出,風、金相摩故有火光為變化性;[SG0401048]
湿気は金剛の表面に生じ、そして火の熱気に従って立ち上る。その結果、水輪が十方の世界に遍在する。
寶明生潤,火光上蒸,故有水輪含十方界。[SG0401049]
火の熱気は上昇し、水の湿気は下降し、両者が交わって融合し、湿る部分は大海となり、乾く部分は大陸となった。
火騰、水降,交發立堅,濕為巨海,乾為洲潬。[SG0401050]
それゆえ、海上には常に火の光が現れ、陸地には川が常に流れている。
以是義故,彼大海中火光常起;彼洲潬中江河常注。[SG0401051]
水の勢いが火の勢いより弱ければ、水と火は結合して高山となった。
水勢劣火,結為高山;[SG0401052]
それゆえ、石が互いにぶつかれば火花が散り、溶ければ液体になる。
是故山石擊則成炎,融則成水。[SG0401053]
土の勢いが水の勢いより弱ければ、草木が生じた。
土勢劣水,抽為草木;[SG0401054]
それゆえ、草木が燃えたら土となり、絞られれば水が出る。
是故林藪遇燒成土,因絞成水,[SG0401055]
このようにさまざまな幻の相は混合してさらに新しいものとなる。その結果、世界は絶えず続いていくのである。
交妄發生,遞相為種;以是因緣世界相續。[SG0401056]
また、プールナよ、無明と妄想は他のものではなく、覚性に清明の印象を付け加えるゆえに起こるものである。
復次,富樓那,明妄非他,覺明為咎! [SG0401057]
無明と妄想が起こるゆえ、本覚の覚性は遮られている。
所妄既立,明理不踰。[SG0401058]
それで、色塵が出現するゆえ視覚という虚妄の感覚が生じ、声塵が出現するゆえ聴覚という虚妄の感覚が生じる。
以是因緣,聽不出聲,見不超色;[SG0401059]
このように色・香・味・触などの六塵が出現するゆえ見・聞・覚・知の六つの感覚が生じる。
色、香、味、觸六妄成就,由是分開見、覺、聞、知。[SG0401060]
業力は互いに絡み合ったり、付いたり、離れたり、変化したりする。
同業相纏,合離成化,[SG0401061]
清明の印象は色塵となり、それを見て妄想を起こす。
見明色發,明見想成。[SG0401062]
対象が妄想の心に合わなければ憎悪の念が芽生え、合えば愛が生じる。
異見成憎,同想成愛,[SG0401063]
愛は卵となり、妄想は集まって胚となる。
流愛為種,納想為胎。[SG0401064]
妄想に引きつけられた業識(魂)は胚に入って成長する。その結果、生命が誕生する。
交遘發生,吸引同業,故有因緣生羯囉藍、遏蒱曇等。[SG0401065]
そして、胎生・卵生・湿生・化生の四生は、それぞれの因縁によって生まれる。
胎、卵、濕、化,隨其所應。[SG0401066]
卵生は妄想によって生まれ、
卵唯想生,[SG0401067]
胎生は情によって生まれ、
胎因情有,[SG0401068]
湿生は新しい境への執着によって生まれ、
濕以合感,[SG0401069]
化生は古い境への嫌悪によって生まれる。
化以離應。[SG0401070]
妄想・情・執着・嫌悪の心が交替して起こるゆえ、衆生はそれぞれの業力に従い、六道の中を浮き沈みする。その結果、衆生は絶えず存続している。
情、想、合、離更相變易,所有受業逐其飛沈,以是因緣眾生相續。[SG0401071]
プールナよ! 妄想は愛に結び付き、愛着の対象に執着するため、世間では父母と子孫が互いに絶えず生み続けている(父母は子孫の子孫に生まれ変わる)。
富樓那! 想愛同結,愛不能離;則諸世間父母子孫相生不斷;[SG0401072]
その根本原因は愛を貪るからだ。
是等則以欲貪為本。[SG0401073]
貪欲と愛が互いに滋養となり、貪欲を断ち切ることができないため、世間の卵生・化生・湿生・胎生の衆生は、力の強弱に従って互いに捕食する。
貪愛同滋,貪不能止,則諸世間卵、化、濕、胎,隨力強弱遞相吞食;[SG0401074]
その根本原因は殺生(生き物を殺すこと)を貪るからだ。
是等則以殺貪為本。[SG0401075]
人類は羊を捕食し、羊は死んだ後に人類に生まれ変わり、人類は死んだ後にも羊に生まれ変わる。十種類の衆生(卵生・胎生・湿生・化生・有色・無色・有想・無想・非有想・非無想)はこのように生まれては死に、死んでは生まれ、互いに捕食し、永遠に悪業を伴って輪廻を絶えず続けている。
以人食羊,羊死為人,人死為羊,如是乃至十生之類,死死生生互來相噉,惡業俱生窮未來際;[SG0401076]
その根本原因は盗みを貪るからだ。
是等則以盜貪為本。[SG0401077]
お前は私に命の借りがあり、私はお前に借りを返す。このように交替し、百・千劫の時間を経ても、輪廻は終わらない。
汝負我命,我還汝債,以是因緣,經百千劫常在生死。[SG0401078]
お前は私の心に惹かれ、私はお前の姿に惹かれる。この因縁のため、百・千劫の時間を経ても、常に互いに付き纏っている。
汝愛我心,我憐汝色,以是因緣,經百千劫常在纏縛。[SG0401079]
それゆえ、因果応報の絶えず続く根本原因は、殺生・偸盗・淫欲を貪るからだ。
唯殺、盜、婬三為根本,以是因緣業果相續。[SG0401080]
プールナよ! その三つの絶えない転倒は、すべて覚性に清明の印象を付け加えることに起因する。
富樓那! 如是三種顛倒相續,皆是覺明明了知性,[SG0401081]
そのせいでさまざまな虚妄の見が生じ、山河や大地などの有為の相が次々と移り変わり、終わりなく循環しているのだ。」
因了發相,從妄見生。山河大地諸有為相,次第遷流;因此虛妄,終而復始。」[SG0401082]
プールナ:
富樓那言:[SG0401083]
「この妙明な覚性は本来清明であり、如来様のお心と同じく増減もございません。
「若此妙覺本妙覺明與如來心不增不減,[SG0401084]
何の原因もなく山河や大地などの有為の相が急に出現しました。
無狀忽生山河大地諸有為相;[SG0401085]
では、如来様はすでに正覚の境地にお達しになりましたのに、どうして山河や大地などの有為の相がなお存在しているのでしょうか?」
如來今得妙空明覺,山河大地有為習漏何當復生?」[SG0401086]
お釈迦様はプールナに聞きました。
佛告富樓那:[SG0401087]
「たとえば、ある迷子は村で南方を北方と誤認する。
「譬如迷人,於一聚落惑南為北,[SG0401088]
では、方角に迷うことは、迷いに起因するのか、それとも悟りに起因するのか?」
此迷為復因迷而有? 因悟所出?」[SG0401089]
プールナ:
富樓那言:[SG0401090]
「それは迷いにも悟りにも起因しません。なぜなら、
「如是迷人,亦不因迷又不因悟。何以故? [SG0401091]
方角に迷うことは本来根本がなく、どうしてこれは迷いに起因すると言えるのでしょうか?
迷本無根,云何因迷? [SG0401092]
悟りは方角の誤認に導くものではなく、どうして悟りに起因すると言えるのでしょうか?」
悟非生迷,云何因悟?」[SG0401093]
お釈迦様:
佛言:[SG0401094]
「その迷子が方角に迷っている時、もし方角を知る人が正しい方角を示すとしたら、プールナよ! どう思うか? その迷子はなお村で方角に迷い続けているだろうか?」
「彼之迷人正在迷時,倐有悟人指示令悟;富樓那! 於意云何? 此人縱迷,於此聚落更生迷不?」[SG0401095]
プールナ:
[SG0401096]
「いいえ、世尊様。そのようなことはございません。」
「不也。世尊!」[SG0401097]
お釈迦様:
[SG0401098]
「プールナよ! 十方の如来たちも同じである。
「富樓那! 十方如來,亦復如是。[SG0401099]
方角に迷うことは根源がなく、その本質が空である。
此迷無本,性畢竟空。[SG0401100]
迷いというものは本来存在せず、ただ迷っているように感じているだけだ。
昔本無迷,似有迷覺,[SG0401101]
一度迷いから覚醒すれば迷いは消滅し、二度と起こらない。
覺迷迷滅,覺不生迷。[SG0401102]
たとえば、眼病のある者は虚空に砂嵐が見える。病が治れば、虚空に現れる砂嵐は消失する。
亦如瞖人見空中花,瞖病若除,花於空滅。[SG0401103]
もしある者がその砂嵐の消失した場所で待ち、砂嵐が再び出現するのを期待しているとしたら、お前はどう思うのか? その者は愚かか、それとも賢いか?」
忽有愚人,於彼空花所滅空地,待花更生;汝觀是人為愚為慧?」[SG0401104]
プールナ:
富樓那言:[SG0401105]
「虚空には本来砂嵐など存在せず、錯覚を起こして砂嵐の生滅が見えるだけです。
「空元無花,妄見生滅,[SG0401106]
そもそも砂嵐が虚空から消失したことは存在せず、砂嵐が再び出現するのを期待するなど、まさに狂気です。
見花滅空已是顛倒,勅令更出斯實狂癡;[SG0401107]
その狂人が愚かとか賢いとか論じることは、意味がありません。」
云何更名如是狂人為愚為慧?」[SG0401108]
お釈迦様:
佛言:[SG0401109]
「まさにそのとおりだ。
「如汝所解,[SG0401110]
それでは、なぜまだ問うのか、『諸如来はすでに正覚の境地に達したのに、どうして山河や大地がなお出現するのか』と?
云何問言:『諸佛如來妙覺明空,何當更出山河大地?』[SG0401111]
たとえば、砂金は鉱石から精錬されて純金となった後、二度と混じり物と混ざらない。
又如金鑛雜於精金,其金一純,更不成雜;[SG0401112]
また、木は燃えて灰となった後、二度と木に戻らない。
如木成灰,不重為木;[SG0401113]
諸如来の正覚も同様だ。」
諸佛如來菩提涅槃,亦復如是。[SG0401114]
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