【楞厳経】巻四
鐘の声
アーナンダはお釈迦様に言いました。
阿難白佛言:[SG0406001]
「世尊様! 世尊様のおっしゃるとおり、
「世尊! 如佛說言,[SG0406002]
『もし因地の心が常住してほしいなら、その心は果地の正覚の心に合致しなければなりません。』
『因地覺心欲求常住,要與果位名目相應」,[SG0406003]
世尊様。如来の果地において、菩提・涅槃・真如・仏性(仏の本性)・菴摩羅識(無垢識・清浄識。第九の識)・空如来蔵・大円鏡智(すべてを実相のままに映す智慧)という七つの境地の名称は違いますが、その清浄・円満の性が堅固で、金剛のように常住不壊です。
世尊! 如果位中,菩提、涅槃、真如、佛性、菴摩羅識、空如來藏、大圓鏡智,是七種名稱謂雖別,清淨圓滿體性堅凝,如金剛王常住不壞。[SG0406004]
明・暗・動・静・流通・閉塞などの相を離れれば、知覚は実体がなく、
若此見、聽離於暗明、動靜、通塞,畢竟無體;[SG0406005]
法塵を離れれば、意・念はありません。
猶如念心離於前塵,本無所有。[SG0406006]
どうしてこの必ず断滅する心を因地の心として、如来の七つの常住の果を求めようとするのでしょうか?
云何將此畢竟斷滅以為修因,欲獲如來七常住果? [SG0406007]
世尊様。明・暗を離れれば、見はありません。
世尊! 若離明暗,見畢竟空,[SG0406008]
法塵を離れれば、意・念はありません。
如無前塵,念自性滅。[SG0406009]
いかに思索を重ねても、心と心所(心の構成要素・機能・中身のこと)は本来存在しません。
進退循環,微細推求,本無我心及我心所,[SG0406010]
それでは、因地の心を起こして無上正等覚を求める人はいるのでしょうか?
將誰立因求無上覺? [SG0406011]
先ほど世尊様は、『覚性は湛然で、精妙で、円満で、常住である』とおっしゃいました。
如來先說湛精圓常,[SG0406012]
もしそれが真実でなければ、恐らく戯論になります。世尊様のお言葉が真実であるはずです。
違越誠言,終成戲論;云何如來真實語者? [SG0406013]
どうかご慈悲をくださり、私たちの疑惑をお晴らしください!」
唯垂大慈開我蒙悋!」[SG0406014]
お釈迦様はアーナンダに言いました。
佛告阿難:[SG0406015]
「お前は多くの仏法を聞いてきたが、まだ煩悩を断ち切っていない。
「汝學多聞,未盡諸漏,[SG0406016]
ただ転倒の原因を知るのみで、転倒が実際に出現した時、それを見破ることができない。
心中徒知顛倒所因,真倒現前實未能識。[SG0406017]
お前は真心があるが、恐らく私の言葉を信じ切ってはいないだろう。
恐汝誠心猶未信伏,[SG0406018]
いま私は世間の事例を挙げ、お前の疑惑を晴らしてやろう。」
吾今試將塵俗諸事,當除汝疑。」[SG0406019]
そこで、お釈迦様はラーフラ尊者に命じ、鐘を一度打ち鳴らさせました。
即時如來勅羅睺羅擊鍾一聲,[SG0406020]
お釈迦様はアーナンダに問いました。
問阿難言:[SG0406021]
「いま、聞こえるか?」
「汝今聞不?」[SG0406022]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾俱言:[SG0406023]
「聞こえます。」
「我聞。」[SG0406024]
鐘の響きが止み、お釈迦様は再び問いました。
鍾歇無聲,佛又問言:[SG0406025]
「いま、聞こえるか?」
「汝今聞不?」[SG0406026]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾俱言:[SG0406027]
「聞こえません。」
「不聞。」[SG0406028]
そして、ラーフラ尊者は再び鐘を一度打ち鳴らしました。
時羅睺羅又擊一聲,[SG0406029]
お釈迦様はまた問いました。
佛又問言:[SG0406030]
「いま、聞こえるか?」
「汝今聞不?」[SG0406031]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾又言:[SG0406032]
「聞こえます。」
「俱聞。」[SG0406033]
お釈迦様はアーナンダに問いました。
佛問阿難:[SG0406034]
「お前の言う、『聞こえる』とはどういうことか? 『聞こえない』とはどういうことか?」
「汝云何聞? 云何不聞?」[SG0406035]
アーナンダと会衆はお釈迦様に答えました。
阿難、大眾俱白佛言:[SG0406036]
「鐘が鳴る時、私は聞こえました。
「鍾聲若擊則我得聞;[SG0406037]
その後、響きが完全に消えた時、私は聞こえませんでした。」
擊久聲銷,音響雙絕,則名無聞。」[SG0406038]
お釈迦様は再びラーフラ尊者に鐘を打ち鳴らさせ、アーナンダに問いました。
如來又勅羅睺擊鍾,問阿難言:[SG0406039]
「いま、声があるか?」
「爾今聲不?」[SG0406040]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾俱言:[SG0406041]
「声があります。」
「有聲。」[SG0406042]
やがて声が消え、お釈迦様は再び問いました。
少選聲銷,佛又問言:[SG0406043]
「いま、声があるか?」
「爾今聲不?」[SG0406044]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾答言:[SG0406045]
「声がありません。」
「無聲。」[SG0406046]
そして、ラーフラ尊者は再び鐘を打ち鳴らしました。
有頃,羅睺更來撞鍾,[SG0406047]
お釈迦様はまた問いました。
佛又問言:[SG0406048]
「いま、声があるか?」
「爾今聲不?」[SG0406049]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾俱言:[SG0406050]
「声があります。」
「有聲。」[SG0406051]
お釈迦様はアーナンダに聞きました。
佛問阿難:[SG0406052]
「お前の言う、『声がある』とはどういうことか? 『声がない』とはどういうことか?」
「汝云何聲? 云何無聲?」[SG0406053]
アーナンダと会衆は答えました。
阿難、大眾俱白佛言:[SG0406054]
「鐘が鳴った時には声がありました。
「鍾聲若擊則名有聲;[SG0406055]
その後、響きが完全に消えた時、声がありませんでした。」
擊久聲銷,音響雙絕,則名無聲。」[SG0406056]
お釈迦様はアーナンダと会衆に言いました。
佛語阿難及諸大眾:[SG0406057]
「なぜお前たちの答えはつじつまが合わないのか?」
「汝今云何自語矯亂?」[SG0406058]
アーナンダと会衆はすぐお釈迦様に問いました。
大眾、阿難俱時問佛:[SG0406059]
「どのように、つじつまが合わないのでしょうか?」
「我今云何名為矯亂?」[SG0406060]
お釈迦様:
佛言:[SG0406061]
「先ほど私は、『聞こえるか』と問うた時、前たちは、『聞こえる』と答えた。
「我問汝聞,汝則言聞;[SG0406062]
そして、私は、『声があるか』と問うた時、前たちは、『声がある』と答えた。
又問汝聲,汝則言聲。[SG0406063]
お前たちは聞こえることと声があることとを混同している。なぜお前たちの答えはつじつまが合うと思うのか?
惟聞與聲報答無定,如是云何不名矯亂? [SG0406064]
アーナンダよ! 声が消えた時、お前は、『聞こえない(無聞)』と答えた。
阿難! 聲銷無響,汝說無聞;[SG0406065]
もし本当に『聞くこと』がなくなれば、聞性(聴力)はすでに消滅し、枯れ木の如くなっているはずだ。
若實無聞,聞性已滅同于枯木,[SG0406066]
では、再び鐘を鳴らした時、なぜお前たちはそれが聞こえたのか?
鍾聲更擊,汝云何知? [SG0406067]
聞こえるかどうかは、ただ声の有無によるだけであり、聞性はお前のために生滅するはずがない。
知有、知無,自是聲塵或無、或有,豈彼聞性為汝有、無? [SG0406068]
もし聞性が本当に消滅するとしたら、声のない状態を知る人はいるのか?
聞實云無,誰知無者? [SG0406069]
アーナンダよ! 聴きなさい。
是故阿難! [SG0406070]
声は自ら生滅し、聞性は声の生滅に従って生滅するものではない。
聲於聞中自有生滅;非為汝聞聲生、聲滅,令汝聞性為有、為無。[SG0406071]
お前はまだ転倒した観念に陥り、声と聞性を混同している。ゆえに、常住の性が断滅であると思い込んでいるのだ。
汝尚顛倒,惑聲為聞,何怪昏迷,以常為斷? [SG0406072]
動・静・流通・閉塞を離れれば聞性が存在しないと言うべきではない。
終不應言離諸動靜、閉塞、開通,說聞無性。[SG0406073]
たとえば、ある人は深い眠りに入った時、家人は衣を打ち(古い洗濯法)、米を搗いている。
如重睡人眠熟床枕,其家有人於彼睡時擣練、舂米,[SG0406074]
その人は夢の中でその音を聞き、太鼓や鐘の響きと誤認し、
其人夢中聞舂擣聲別作他物,或為擊鼓,或復撞鍾;[SG0406075]
そして、『なぜ鐘から木や石のような音が出るのか』と不思議に思う。
即於夢時,自怪其鍾為木石響。[SG0406076]
その時、ふと夢から覚め、杵の音であったと気づき、そこで、家族に語る。
於時忽寤,遄知杵音。自告家人:[SG0406077]
『私は夢の中で杵の音を鐘の響きと誤認してしまった。』
『我正夢時,惑此舂音將為鼓響。」[SG0406078]
アーナンダよ! その人は夢の中で動・静・流通・閉塞などを思い出していたのか?
阿難! 是人夢中,豈憶靜搖、開閉、通塞? [SG0406079]
身は眠っていても、聞性は決して眠らない。
其形雖寐,聞性不昏。[SG0406080]
たとえ身が滅し、命が尽きたとしても、聞性が消滅することはない。
縱汝形銷命光遷謝,此性云何為汝銷滅? [SG0406081]
衆生は無始から色・声を追い、念に従って輪廻に落ち入り、自分の常住の妙浄な真性を見失っている。
以諸眾生從無始來,循諸色、聲逐念流轉,曾不開悟性淨妙常。[SG0406082]
常住の真性に従わず、生滅の相を追っているゆえ、世々さまざまな幻相に蝕まれ、輪廻を絶えず続けているのだ。
不循所常,逐諸生滅,由是生生雜染流轉。[SG0406083]
もし生滅の相を捨て、常住の真性を恢復したら、真性の光明が常に現れ、根・塵・識心は瞬時に崩れ去る。
若棄生滅,守於真常,常光現前,塵根、識心應時銷落。[SG0406084]
想と相は塵であり、識と情は垢である。これらを遠ざければ、お前の法眼は直ちに清明になる。
想相為塵,識情為垢,二俱遠離;則汝法眼應時清明,[SG0406085]
その時、無上正等覚を成就しないことがあろうか?」
云何不成無上知覺?」[SG0406086]
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