天女
【維摩経】観衆生品
天女、登場!
その時、維摩詰の部屋には一人の天女がいて、部屋であったことを見聞きしてから、
時維摩詰室有一天女,見諸大人聞所說法,[VK0702001]
姿を現し、空に向かって天華(天界の花)を撒き散らしました。
便現其身,即以天華散諸菩薩、大弟子上。[VK0702002]
そして、散った花々が菩薩たちの身に触れた時、そのまままっすぐに滑り落ちました。
華至諸菩薩,即皆墮落,[VK0702003]
しかし、花々が大弟子たちの身に触れた時、ぴったり身に付着して地面に落ちませんでした。
至大弟子,便著不墮。[VK0702004]
すべての大弟子たちは神通力を使っても、花々を払い落とすことができませんでした。
一切弟子神力去華,不能令去。[VK0702005]
その時、天女はシャーリプトラに聞きました。
爾時天女問舍利弗:[VK0702006]
「あの、どうして花々を払い落とすのですか?」
「何故去華?」[VK0702007]
シャーリプトラは答えました。
答曰:[VK0702008]
「花々が身に付着していることは仏法に背くから、私は花々を払い落とすのです。」
「此華不如法,是以去之。」[VK0702009]
天女:
天曰:[VK0702010]
「花が仏法に背くと言わないでください。なぜかというと、
「勿謂此華為不如法。所以者何?[VK0702011]
花は物事を区別しないのに、御仁こそが区別の観念を抱いているからです。
是華無所分別,仁者自生分別想耳![VK0702012]
もし如来の弟子が、物事を区別すれば、これこそは仏法に背くことなのです。
若於佛法出家,有所分別,為不如法;[VK0702013]
物事を区別しなければ、これこそは仏法に則ることなのです。
若無所分別,是則如法。[VK0702014]
見てください。花々は菩薩たちの身に付着していないでしょう!
觀諸菩薩華不著者,[VK0702015]
菩薩たちはすべての区別の観念を断ち切ってしまったからです。
已斷一切分別想故。[VK0702016]
例えば、人が何かにおびえる時、非人(人間ではないもの。鬼神や天龍八部衆など)はその人の弱点につけ込むことができます。
譬如人畏時,非人得其便;[VK0702017]
そのように、如来の弟子は生死輪廻を恐れるゆえに、五欲は弱点につけ込むことができるのです。
如是弟子畏生死故,色、聲、香、味、觸得其便也。[VK0702018]
すべての五欲は無畏の境地に至った者に対して無力になるのです。
已離畏者,一切五欲無能為也;[VK0702019]
煩悩や悪い習性がまだ残っていると、花は身に付着します。
結習未盡,華著身耳![VK0702020]
煩悩や悪い習性を断ち切ってしまえば、花は身に付着しませんよ。」
結習盡者,華不著也。」[VK0702021]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702022]
「それより、天女さんはこの部屋にいて、どれくらいになりますか?」
「天止此室,其已久如?」[VK0702023]
天女:
答曰:[VK0702024]
「長老さん(シャーリプトラ)はいつ解脱の境地に至りましたか? 私もそれと同じ時間からこの部屋にいるのです。」
「我止此室,如耆年解脫。」[VK0702025]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702026]
「そんなに長い時間ですか?」
「止此久耶?」[VK0702027]
天女:
天曰:[VK0702028]
「長老さんも解脱の境地に至ってからそんなに長い時間がたつのですか?」
「耆年解脫,亦何如久?」[VK0702029]
シャーリプトラは黙って答えませんでした。
舍利弗默然不答。[VK0702030]
天女:
天曰:[VK0702031]
「どうしましたか? 長老さん! 大智慧が備わっていらっしゃいますが、黙って返答しないのですか?」
「如何耆舊大智而默?」[VK0702032]
シャーリプトラ:
答曰:[VK0702033]
「解脱の境地に至った者は無口なので、私は何を言えばいいか分からないのです。」
「解脫者無所言說,故吾於是不知所云。」[VK0702034]
天女:
天曰:[VK0702035]
「文字も言葉も解脱と同じ性質です。なぜかというと、
「言說文字,皆解脫相。所以者何?[VK0702036]
解脱ということは、内にもなく、外にもなく、中間にもないからです。
解脫者,不內不外,不在兩間;[VK0702037]
文字も内にもなく、外にもなく、中間にもないのです。
文字亦不內不外,不在兩間。[VK0702038]
シャーリプトラさん! それゆえ、文字を離れて解脱を説くのは無理です。なぜなら、
是故,舍利弗!無離文字說解脫也。所以者何?[VK0702039]
すべては解脱と同じ性質だからです。」
一切諸法是解脫相。」[VK0702040]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702041]
「それでは、解脱の境地に至るように、貪欲・瞋恚・愚昧を離れる必要がないのでしょうか?」
「不復以離婬、怒、癡為解脫乎?」[VK0702042]
天女:
天曰:[VK0702043]
「如来は増上慢(まだ悟りを開いていないのに、自分が悟りを開いたと思って高ぶること)の人のために、貪欲・瞋恚・愚昧を離れることが解脱だとおっしゃいます。
「佛為增上慢人說離婬、怒、癡為解脫耳;[VK0702044]
もし増上慢の人でなければ、
若無增上慢者,[VK0702045]
如来は、貪欲・瞋恚・愚昧は解脱と同じ性質だとおっしゃいます。」
佛說婬、怒、癡性,即是解脫。」[VK0702046]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702047]
「素晴らしい! 素晴らしいです! 天女さん!
「善哉,善哉!天女![VK0702048]
あなたは(修行から)何を得たのでしょうか?
汝何所得?[VK0702049]
どんな境地に至ったのでしょうか?
以何為證?[VK0702050]
どうしてこのような弁才があるのです。」
辯乃如是!」[VK0702051]
天女:
天曰:[VK0702052]
「私は何も得ていないです。また、何の境地にも至っていないです。
「我無得無證,[VK0702053]
それゆえ、このような弁才があるのです。なぜなら、
故辯如是。所以者何?[VK0702054]
もし何かを得たら、何かの境地に至ったら、
若有得有證者,[VK0702055]
仏法において、これは増上慢ということだからです。」
即於佛法為增上慢。」[VK0702056]
シャーリプトラ:
舍利弗問天:[VK0702057]
「天女さん! 三乗(大乗・辟支仏乗・声聞乗)の中でどれを志すのですか?」
「汝於三乘為何志求?」[VK0702058]
天女:
天曰:[VK0702059]
「衆生に声聞の法(四聖諦)を教えるなら、私は声聞をします。
「以聲聞法化眾生故,我為聲聞;[VK0702060]
衆生に因縁の法を教えるなら、私は辟支仏をします。
以因緣法化眾生故,我為辟支佛;[VK0702061]
衆生に大悲の法を教えるなら、私は大乗の菩薩をします。シャーリプトラさん!
以大悲法化眾生故,我為大乘。舍利弗![VK0702062]
例えば、ある人が瞻蔔(センプク。香りがよい花)の林に入ったら、
如人入瞻蔔林,[VK0702063]
ただ瞻蔔の香りがして、他の植物の匂いを嗅ぐことができません。
唯嗅瞻蔔,不嗅餘香。[VK0702064]
まさにそのように、この部屋に入ったら、
如是,若入此室,[VK0702065]
ただ如来の功徳の芳香がして、声聞・辟支仏の功徳の香りを嗅ぎたくないのです。シャーリプトラさん!
但聞佛功德之香,不樂聞聲聞、辟支佛功德香也。舍利弗![VK0702066]
かつて帝釈天・梵天王・護世四天王・
其有釋、梵、四天王,[VK0702067]
天人たち・龍たち・鬼神たちなどは、この部屋に来て、
諸天、龍、鬼神等,入此室者,[VK0702068]
こちらの上人様(維摩詰)のご説法を聴いて、
聞斯上人講說正法,[VK0702069]
皆如来の功徳の芳香を楽しみ、そして、大乗の心を発して部屋を離れたのです。シャーリプトラさん!
皆樂佛功德之香,發心而出。舍利弗![VK0702070]
私はこの部屋にいて十二年になり、
吾止此室十有二年,[VK0702071]
ここでは声聞・辟支仏の法を聴いたことがなく、
初不聞說聲聞、辟支佛法,[VK0702072]
ただ菩薩の大慈大悲と諸如来様の不思議の法門を聴いているのです。」
但聞菩薩大慈大悲、不可思議諸佛之法。[VK0702073]
【維摩経】観衆生品
天女、登場!
その時、維摩詰の部屋には一人の天女がいて、部屋であったことを見聞きしてから、
時維摩詰室有一天女,見諸大人聞所說法,[VK0702001]
姿を現し、空に向かって天華(天界の花)を撒き散らしました。
便現其身,即以天華散諸菩薩、大弟子上。[VK0702002]
そして、散った花々が菩薩たちの身に触れた時、そのまままっすぐに滑り落ちました。
華至諸菩薩,即皆墮落,[VK0702003]
しかし、花々が大弟子たちの身に触れた時、ぴったり身に付着して地面に落ちませんでした。
至大弟子,便著不墮。[VK0702004]
すべての大弟子たちは神通力を使っても、花々を払い落とすことができませんでした。
一切弟子神力去華,不能令去。[VK0702005]
その時、天女はシャーリプトラに聞きました。
爾時天女問舍利弗:[VK0702006]
「あの、どうして花々を払い落とすのですか?」
「何故去華?」[VK0702007]
シャーリプトラは答えました。
答曰:[VK0702008]
「花々が身に付着していることは仏法に背くから、私は花々を払い落とすのです。」
「此華不如法,是以去之。」[VK0702009]
天女:
天曰:[VK0702010]
「花が仏法に背くと言わないでください。なぜかというと、
「勿謂此華為不如法。所以者何?[VK0702011]
花は物事を区別しないのに、御仁こそが区別の観念を抱いているからです。
是華無所分別,仁者自生分別想耳![VK0702012]
もし如来の弟子が、物事を区別すれば、これこそは仏法に背くことなのです。
若於佛法出家,有所分別,為不如法;[VK0702013]
物事を区別しなければ、これこそは仏法に則ることなのです。
若無所分別,是則如法。[VK0702014]
見てください。花々は菩薩たちの身に付着していないでしょう!
觀諸菩薩華不著者,[VK0702015]
菩薩たちはすべての区別の観念を断ち切ってしまったからです。
已斷一切分別想故。[VK0702016]
例えば、人が何かにおびえる時、非人(人間ではないもの。鬼神や天龍八部衆など)はその人の弱点につけ込むことができます。
譬如人畏時,非人得其便;[VK0702017]
そのように、如来の弟子は生死輪廻を恐れるゆえに、五欲は弱点につけ込むことができるのです。
如是弟子畏生死故,色、聲、香、味、觸得其便也。[VK0702018]
すべての五欲は無畏の境地に至った者に対して無力になるのです。
已離畏者,一切五欲無能為也;[VK0702019]
煩悩や悪い習性がまだ残っていると、花は身に付着します。
結習未盡,華著身耳![VK0702020]
煩悩や悪い習性を断ち切ってしまえば、花は身に付着しませんよ。」
結習盡者,華不著也。」[VK0702021]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702022]
「それより、天女さんはこの部屋にいて、どれくらいになりますか?」
「天止此室,其已久如?」[VK0702023]
天女:
答曰:[VK0702024]
「長老さん(シャーリプトラ)はいつ解脱の境地に至りましたか? 私もそれと同じ時間からこの部屋にいるのです。」
「我止此室,如耆年解脫。」[VK0702025]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702026]
「そんなに長い時間ですか?」
「止此久耶?」[VK0702027]
天女:
天曰:[VK0702028]
「長老さんも解脱の境地に至ってからそんなに長い時間がたつのですか?」
「耆年解脫,亦何如久?」[VK0702029]
シャーリプトラは黙って答えませんでした。
舍利弗默然不答。[VK0702030]
天女:
天曰:[VK0702031]
「どうしましたか? 長老さん! 大智慧が備わっていらっしゃいますが、黙って返答しないのですか?」
「如何耆舊大智而默?」[VK0702032]
シャーリプトラ:
答曰:[VK0702033]
「解脱の境地に至った者は無口なので、私は何を言えばいいか分からないのです。」
「解脫者無所言說,故吾於是不知所云。」[VK0702034]
天女:
天曰:[VK0702035]
「文字も言葉も解脱と同じ性質です。なぜかというと、
「言說文字,皆解脫相。所以者何?[VK0702036]
解脱ということは、内にもなく、外にもなく、中間にもないからです。
解脫者,不內不外,不在兩間;[VK0702037]
文字も内にもなく、外にもなく、中間にもないのです。
文字亦不內不外,不在兩間。[VK0702038]
シャーリプトラさん! それゆえ、文字を離れて解脱を説くのは無理です。なぜなら、
是故,舍利弗!無離文字說解脫也。所以者何?[VK0702039]
すべては解脱と同じ性質だからです。」
一切諸法是解脫相。」[VK0702040]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702041]
「それでは、解脱の境地に至るように、貪欲・瞋恚・愚昧を離れる必要がないのでしょうか?」
「不復以離婬、怒、癡為解脫乎?」[VK0702042]
天女:
天曰:[VK0702043]
「如来は増上慢(まだ悟りを開いていないのに、自分が悟りを開いたと思って高ぶること)の人のために、貪欲・瞋恚・愚昧を離れることが解脱だとおっしゃいます。
「佛為增上慢人說離婬、怒、癡為解脫耳;[VK0702044]
もし増上慢の人でなければ、
若無增上慢者,[VK0702045]
如来は、貪欲・瞋恚・愚昧は解脱と同じ性質だとおっしゃいます。」
佛說婬、怒、癡性,即是解脫。」[VK0702046]
シャーリプトラ:
舍利弗言:[VK0702047]
「素晴らしい! 素晴らしいです! 天女さん!
「善哉,善哉!天女![VK0702048]
あなたは(修行から)何を得たのでしょうか?
汝何所得?[VK0702049]
どんな境地に至ったのでしょうか?
以何為證?[VK0702050]
どうしてこのような弁才があるのです。」
辯乃如是!」[VK0702051]
天女:
天曰:[VK0702052]
「私は何も得ていないです。また、何の境地にも至っていないです。
「我無得無證,[VK0702053]
それゆえ、このような弁才があるのです。なぜなら、
故辯如是。所以者何?[VK0702054]
もし何かを得たら、何かの境地に至ったら、
若有得有證者,[VK0702055]
仏法において、これは増上慢ということだからです。」
即於佛法為增上慢。」[VK0702056]
シャーリプトラ:
舍利弗問天:[VK0702057]
「天女さん! 三乗(大乗・辟支仏乗・声聞乗)の中でどれを志すのですか?」
「汝於三乘為何志求?」[VK0702058]
天女:
天曰:[VK0702059]
「衆生に声聞の法(四聖諦)を教えるなら、私は声聞をします。
「以聲聞法化眾生故,我為聲聞;[VK0702060]
衆生に因縁の法を教えるなら、私は辟支仏をします。
以因緣法化眾生故,我為辟支佛;[VK0702061]
衆生に大悲の法を教えるなら、私は大乗の菩薩をします。シャーリプトラさん!
以大悲法化眾生故,我為大乘。舍利弗![VK0702062]
例えば、ある人が瞻蔔(センプク。香りがよい花)の林に入ったら、
如人入瞻蔔林,[VK0702063]
ただ瞻蔔の香りがして、他の植物の匂いを嗅ぐことができません。
唯嗅瞻蔔,不嗅餘香。[VK0702064]
まさにそのように、この部屋に入ったら、
如是,若入此室,[VK0702065]
ただ如来の功徳の芳香がして、声聞・辟支仏の功徳の香りを嗅ぎたくないのです。シャーリプトラさん!
但聞佛功德之香,不樂聞聲聞、辟支佛功德香也。舍利弗![VK0702066]
かつて帝釈天・梵天王・護世四天王・
其有釋、梵、四天王,[VK0702067]
天人たち・龍たち・鬼神たちなどは、この部屋に来て、
諸天、龍、鬼神等,入此室者,[VK0702068]
こちらの上人様(維摩詰)のご説法を聴いて、
聞斯上人講說正法,[VK0702069]
皆如来の功徳の芳香を楽しみ、そして、大乗の心を発して部屋を離れたのです。シャーリプトラさん!
皆樂佛功德之香,發心而出。舍利弗![VK0702070]
私はこの部屋にいて十二年になり、
吾止此室十有二年,[VK0702071]
ここでは声聞・辟支仏の法を聴いたことがなく、
初不聞說聲聞、辟支佛法,[VK0702072]
ただ菩薩の大慈大悲と諸如来様の不思議の法門を聴いているのです。」
但聞菩薩大慈大悲、不可思議諸佛之法。[VK0702073]