善徳長者

【維摩経ゆいまきょう】菩薩品ぼさつほん

ホーム　>　維摩経

　>　04.菩薩品

　>　4.善徳長者

　善ぜん徳とく長ちょう者しゃ

そこで、お釈シャ迦カ様は善ぜん徳とく長ちょう者しゃに言いました。

佛告長者子善德：［VK0404001］

「お前が維ゆい摩ま詰きつを見み舞まいに行ってきなさい。」

「汝行詣維摩詰問疾。」［VK0404002］

善ぜん徳とくはお釈シャ迦カ様に言いました。

善德白佛言：［VK0404003］

「申し訳ございません。世せ尊そん様。私はその御方を見み舞まうことができかねます。なぜかというと、

「世尊！我不堪任詣彼問疾。所以者何？［VK0404004］

かつて、私は父の邸てい宅たくで七日間の布ふ施せ大会を開かい催さいし、

憶念我昔自於父舍設大施會，［VK0404005］

すべての沙しゃ門もん・婆バ羅ラ門モン・諸外げ道どう・

供養一切沙門、婆羅門，及諸外道、［VK0404006］

貧しい人々・卑しい人々・孤独な人々・乞食を供く養よういたしました。

貧窮、下賤、孤獨、乞人。期滿七日，［VK0404007］

その時、維ゆい摩ま詰きつ様が大会にお見えになり、私に話しかけられました。

時維摩詰來入會中，謂我言：［VK0404008］

『長ちょう者しゃさんよ！　このような布ふ施せ大会ではなく、

『長者子！夫大施會不當如汝所設，［VK0404009］

法ほう施せ（仏法を施すこと。つまり衆しゅ生じょうを済さい度どする）の会を開かい催さいすべきだ。

當為法施之會，［VK0404010］

なぜこの大会は財ざい施せ（財物を施すこと）の会になったのだろうか？』

何用是財施會為？』［VK0404011］

私は維ゆい摩ま詰きつ様に伺いました。

我言：［VK0404012］

『居こ士じ様！　法ほう施せの会とはいったいどんなものでしょうか？』

『居士！何謂法施之會？』［VK0404013］

維ゆい摩ま詰きつ様はお答えになりました。

答曰：［VK0404014］

『いつでも平等にすべての衆しゅ生じょうを供く養ようする、

『法施會者，無前無後，一時供養一切眾生，［VK0404015］

これが法ほう施せの会の意味なのだ。』

是名法施之會。』［VK0404016］

私は伺いました。

曰：［VK0404017］

『これはいったいどういうことでしょうか？』

『何謂也？』［VK0404018］

    （大乗の心を起こし、修行して衆生を済度する）

      維ゆい摩ま詰きつ：

    （慈じ・ 悲ひ・ 喜き・ 捨しゃ）

『それは、菩ぼ提だい心しんによって慈じ心しん（慈じ愛あいの心）を起こす。

『謂以菩提，起於慈心；［VK0404019］

衆しゅ生じょうを救うことによって大だい悲ひの心（同どう情じょう心しん）を起こす。

以救眾生，起大悲心；［VK0404020］

正しょう法ほうを学ぶことによって喜き心しん（喜び）を起こす。

以持正法，起於喜心；［VK0404021］

智ち慧えを培うことによって捨しゃ心しん（愛あい憎ぞうを捨てる心）を起こす。

以攝智慧，行於捨心；［VK0404022］

    （六波は羅ら蜜みつ：布ふ施せ・持じ戒かい・忍にん辱にく・精しょう進じん・禅ぜん定じょう・智ち慧え）

慳けん貪どん（けちで欲深いこと）の心を除くことによって布ふ施せ波は羅ら蜜みつを修める。

以攝慳貪，起檀波羅蜜；［VK0404023］

戒かい律りつを守ることによって持じ戒かい波は羅ら蜜みつを修める。

以化犯戒，起尸羅波羅蜜；［VK0404024］

無む我がを悟ることによって忍にん辱にく波は羅ら蜜みつを修める。

以無我法，起羼提波羅蜜；［VK0404025］

身・心の執しゅう着ちゃくを断ち切ることによって精しょう進じん波は羅ら蜜みつを修める。

以離身心相，起毘梨耶波羅蜜；［VK0404026］

寂じゃく滅めつの相を悟ることによって禅ぜん定じょう波は羅ら蜜みつを修める。

以菩提相，起禪波羅蜜；［VK0404027］

一いっ切さい智を悟ることによって般はん若にゃ波は羅ら蜜みつを修める。

以一切智，起般若波羅蜜。［VK0404028］

    （三解げ脱だつの門：空・無む相そう・無む作さく）

空の境きょう地ちに入ったまま衆しゅ生じょうを教きょう化かする。

教化眾生，而起於空；［VK0404029］

無む相そうの境きょう地ちに至ったが、有う為い法を捨てぬ。

不捨有為法，而起無相；［VK0404030］

無む作さくの境きょう地ちに至ったが、衆しゅ生じょうを済さい度どするために転生する。

示現受生，而起無作；［VK0404031］


方ほう便べんの力を利用して仏法を守しゅ護ごする。

護持正法，起方便力；［VK0404032］

四し摂しょう法ほうを利用して衆しゅ生じょうを済さい度どする。

以度眾生，起四攝法；［VK0404033］

すべてを敬うことによって除じょ慢まん法ほう（傲ごう慢まんの心を除く修行方法）を修める。

以敬事一切，起除慢法；［VK0404034］

身・命・財物を利用して三堅けん固ごの法（堅けん身しんの法：修行によって不ふ壊えの法ほっ身しんを得ること・堅けん命めいの法：修行によって生しょう死じを超えること・堅けん財ざいの法：布ふ施せによって福ふく徳とくを得ること）を修める。

於身命財，起三堅法；［VK0404035］

六念（仏・法・僧・戒かい律りつ・布ふ施せ・天界を思うこと）によって思念法（心の修行方法）を修める。

於六念中，起思念法；［VK0404036］

六ろく和わ敬けい（僧そう団だんにおいて身・口・意・戒・見・利を統一しているゆえ、紛争を起こさない）によって直じき心しんを起こす。

於六和敬，起質直心；［VK0404037］

善ぜん法ほうを正しく行うことによって正しょう命みょう（清しょう浄じょうで正しい生活）を起こす。

正行善法，起於淨命；［VK0404038］

心が清しょう浄じょうでうれしくて、これによって賢聖に親しんで近づく心を起こす。

心淨歡喜，起近賢聖；［VK0404039］

悪人を憎まないことによって悪人を済さい度どする心を起こす。

不憎惡人，起調伏心；［VK0404040］

出しゅっ家けすることによって深しん心しんを起こす。

以出家法，起於深心；［VK0404041］

多た聞もんによって如にょ説せつ行ぎょう（如にょ来らいのおっしゃるとおりに行うこと）を起こす。

以如說行，起於多聞；［VK0404042］

無む争そう法ほう（争いを避ける方法）に則って暇を過ごす。

以無諍法，起空閑處；［VK0404043］

如にょ来らいの智ち慧えを得るように座ざ禅ぜんを修める。

趣向佛慧，起於宴坐；［VK0404044］

衆しゅ生じょうを束そく縛ばくから解放するように修行をする。

解眾生縛，起修行地；［VK0404045］

相そう好ごうと清しょう浄じょうな仏土を得るように福ふく徳とくを積む。

以具相好，及淨佛土，起福德業；［VK0404046］

智ち慧えによってすべての衆しゅ生じょうの思いを知り、それに応じて皆に説法する。

知一切眾生心念，如應說法，起於智業；［VK0404047］

一いっ切さいの法を知り、取ることも捨てることもせず、一いっ相そうの境きょう地ちに入り、これによって如にょ来らいの智ち慧えを起こす。

知一切法，不取不捨，入一相門，起於慧業；［VK0404048］

一いっ切さいの煩ぼん悩のう・障しょう害がい・不ふ善ぜんを断ち切り、これによってすべての善を起こす。

斷一切煩惱、一切障礙、一切不善法，起一切善業；［VK0404049］

すべての智ち慧えと善ぜん法ほうを獲得し、そして利用して仏法を伝え広めるのだ。

以得一切智慧、一切善法，起於一切助佛道法。［VK0404050］


善ぜん良りょうな男よ！　これが法ほう施せの会なのだ。

如是，善男子！是為法施之會。［VK0404051］

もし菩ぼ薩さつがそのように法ほう施せの会を行えば、彼は大慈善家であり、

若菩薩住是法施會者，為大施主，［VK0404052］

また、世間の福ふく田た（福ふく徳とくが生長する畑）なのだ。』

亦為一切世間福田。』［VK0404053］

世せ尊そん様！　維ゆい摩ま詰きつ様がこのご教きょう示じをお説きになった時、

世尊！維摩詰說是法時，［VK0404054］

婆バ羅ラ門モンたちの中の二百人は皆、阿あ耨のく多た羅ら三さん藐みゃく三さん菩ぼ提だい心しんを発しました。

婆羅門眾中二百人，皆發阿耨多羅三藐三菩提心。［VK0404055］

あの時、私は心が清しょう浄じょうになり、未み曾ぞ有うであると賛さん嘆たんいたしました。

我時心得清淨，歎未曾有！［VK0404056］

私は平へい伏ふくし、額を維ゆい摩ま詰きつ様のお足につけて拝み、

稽首禮維摩詰足，［VK0404057］

すぐ身から百千金以上の価値のある瓔よう珞らく（装そう身しん具ぐ）をはずし、維ゆい摩ま詰きつ様にさしあげました。

即解瓔珞價直百千以上之，［VK0404058］

しかし、維ゆい摩ま詰きつ様は拒絶なさりました。

不肯取。［VK0404059］

私は申し上げました。

我言：［VK0404060］

『居こ士じ様よ！　どうかご笑納ください。

『居士！願必納受，［VK0404061］

ご自由に別の人にお贈りになってもいいですから。』

隨意所與。』［VK0404062］

それで、維ゆい摩ま詰きつ様は瓔よう珞らくを受け取って、二つにお分けになり、

維摩詰乃受瓔珞，分作二分，［VK0404063］

一つを大会の中でもっとも卑しい乞食にお施しになり、

持一分施此會中一最下乞人，［VK0404064］

別の一つを難なん勝しょう如にょ来らい様にお奉りになりました。

持一分奉彼難勝如來。［VK0404065］

大会中のすべての人々は皆、光こう明みょう国土の難なん勝しょう如にょ来らい様が見えました。

一切眾會皆見光明國土難勝如來，［VK0404066］

瓔よう珞らくは如にょ来らい様の上空中で四本の柱を持つ宝ほう台だいになり、

又見珠瓔在彼佛上變成四柱寶臺，［VK0404067］

その宝ほう台だいの四面は厳かに飾られ、それがはっきりと見えました。

四面嚴飾，不相障蔽。［VK0404068］

維ゆい摩ま詰きつ様はその神しん変ぺん（神しん通つう力りきの変へん化か）をお現しになって皆におっしゃいました。

時維摩詰現神變已，作是言：［VK0404069］

『もし施せ主しゅ（布ふ施せをする人）が平等の心を持って、無む量りょうの功く徳どくが備わっている如にょ来らい様を供く養ようするように、もっとも卑しい乞食に布ふ施せし、

『若施主等心施一最下乞人，猶如如來福田之相，［VK0404070］

対象を区く別べつせず、

無所分別，［VK0404071］

皆に対して同等な大慈じ悲ひを持ち、

等于大悲，［VK0404072］

布ふ施せの報いを求めなければ、

不求果報，［VK0404073］

これは無む欠けつの法ほう施せと呼ばれるのだ。』

是則名曰具足法施。』［VK0404074］

その時、ヴァイシャーリー大都市でもっとも卑しい乞食は、

城中一最下乞人，［VK0404075］

維ゆい摩ま詰きつ様の神しん通つう力りきを見て、ご教きょう示じを聴いて、

見是神力，聞其所說，［VK0404076］

阿あ耨のく多た羅ら三さん藐みゃく三さん菩ぼ提だい心しんを発しました。

皆發阿耨多羅三藐三菩提心，［VK0404077］

それゆえ、私はその御方を見み舞まうことができかねます。」

故我不任詣彼問疾。」［VK0404078］

このようにして、菩ぼ薩さつたちはそれぞれお釈シャ迦カ様に自分のことを語り、

如是諸菩薩各各向佛說其本緣，［VK0404079］

維ゆい摩ま詰きつの言葉を述べ、皆もこう言いました。

稱述維摩詰所言，皆曰：［VK0404080］

「申し訳ございません。その御方を見み舞まうことができかねます。」

「不任詣彼問疾！」［VK0404081］


前のページ ≪

目次へ戻る

≫ 次のページ

Scroll to Top