弥勒
【維摩経】菩薩品
弥勒菩薩
そこで、お釈迦様は弥勒菩薩(娑婆世界の次の仏になる菩薩)に言いました。
於是佛告彌勒菩薩:[VK0401001]
「お前が維摩詰を見舞いに行ってきなさい。」
「汝行詣維摩詰問疾。」[VK0401002]
弥勒菩薩はお釈迦様に語りました。
彌勒白佛言:[VK0401003]
「申し訳ございません。世尊様! 私はその御方を見舞うことができかねます。なぜかというと、
「世尊!我不堪任詣彼問疾。所以者何?[VK0401004]
かつて、私は兜率天の王及びその眷属たちに不退転境地の修行を解説してさしあげました。
憶念我昔為兜率天王及其眷屬,說不退轉地之行。[VK0401005]
その時、維摩詰様がお見えになり、私に話しかけられました。
時維摩詰來謂我言:[VK0401006]
『弥勒菩薩よ! あのさぁ、世尊様はお前に御授記(未来のことを保証すること)をくださり、
『彌勒!世尊授仁者記,[VK0401007]
お前が次の世に必ず阿耨多羅三藐三菩提(無上正等覚)を得るとおっしゃっただろう。
一生當得阿耨多羅三藐三菩提。[VK0401008]
では、お前のどの世がその御授記を得るのだろうか?
為用何生,得受記乎?[VK0401009]
過去世か? 現世か? それとも未来世か?
過去耶?未來耶?現在耶?[VK0401010]
もし過去世であれば、過去世はすでに消えてしまった。
若過去生,過去生已滅;[VK0401011]
もし未来世であれば、未来世にはまだ至っておらぬ。
若未來生,未來生未至;[VK0401012]
もし現世であれば、現世は常に変化してとどまっていないのだ。
若現在生,現在生無住。[VK0401013]
世尊様はおっしゃった。
如佛所說:[VK0401014]
『比丘たちよ! お前たちはいま同時に、生長していて・老いていて・滅しているのだ(新陳代謝する)。』
「比丘!汝今即時,亦生亦老亦滅。」[VK0401015]
もし無生(生まれることがないこと)で御授記を得たのであれば、無生はつまり正位(無為涅槃)であり、
若以無生得受記者,無生即是正位,[VK0401016]
正位では授記されることがなく、
於正位中,亦無受記,[VK0401017]
さらに阿耨多羅三藐三菩提を得ることもないのだ。
亦無得阿耨多羅三藐三菩提,[VK0401018]
弥勒はどの状態で御授記を得ただろうか?
云何彌勒受一生記乎?[VK0401019]
真如の出生で御授記を得ただろうか?
為從如生得受記耶?[VK0401020]
それとも真如の消滅で御授記を得ただろうか?
為從如滅得受記耶?[VK0401021]
もし真如の出生で御授記を得たのであれば、真如は生じることがないのだ。
若以如生得受記者,如無有生;[VK0401022]
もし真如の消滅で御授記を得たのであれば、真如は滅することがないのだ。
若以如滅得受記者,如無有滅。[VK0401023]
すべての衆生は皆真如であり、
一切眾生皆如也,[VK0401024]
すべての法もまた真如であり、
一切法亦如也,[VK0401025]
聖人も賢者もまた真如であり、
眾聖賢亦如也,[VK0401026]
弥勒もまた真如なのだ。
至於彌勒亦如也。[VK0401027]
もし弥勒が御授記を得たのであれば、すべての衆生もまた御授記を得たはずだ。なぜなら、
若彌勒得受記者,一切眾生亦應受記。所以者何?[VK0401028]
真如は不二(唯一・絶対。二元ではない)であり、異なることがないからだ。
夫如者不二不異,[VK0401029]
もし弥勒が阿耨多羅三藐三菩提を得たのであれば、すべての衆生もまた阿耨多羅三藐三菩提を得たはずだ。なぜなら、
若彌勒得阿耨多羅三藐三菩提者,一切眾生皆亦應得。所以者何?[VK0401030]
すべての衆生はもともと菩提(悟り)の本性を持っているからだ(衆生はもともと仏である)。
一切眾生即菩提相。[VK0401031]
もし弥勒が入滅する(涅槃に入ること)なら、すべての衆生もまた入滅するはずだ。なぜかを
若彌勒得滅度者,一切眾生亦應滅度。所以者何?[VK0401032]
諸如来様はご存じだ。『すべての衆生はもともと寂滅の境地にあり、それはつまり涅槃であり、さらに入滅することはないのだ。』
諸佛知一切眾生畢竟寂滅,即涅槃相,不復更滅。[VK0401033]
それゆえ、弥勒菩薩よ! 天人たちに不退転境地の修行を説くな。
是故,彌勒!無以此法誘諸天子,[VK0401034]
実は阿耨多羅三藐三菩提心を発する者がいない。
實無發阿耨多羅三藐三菩提心者,[VK0401035]
また、退転する者もいないのだ。弥勒菩薩よ!
亦無退者。彌勒![VK0401036]
まさに天人たちに菩提を区別する観念(得たこと・得ていないこと)を捨てさせるべきだ。なぜかというと、
當令此諸天子,捨於分別菩提之見。所以者何?[VK0401037]
身を通じて菩提を得ることはできぬ。
菩提者不可以身得,[VK0401038]
心を通じて菩提を得ることもできぬ(菩提は得られるものではない)。
不可以心得;[VK0401039]
寂滅は菩提である、(悟りの境地は)あらゆる相がないからだ。
寂滅是菩提,滅諸相故;[VK0401040]
不観(観察しないこと)は菩提である、あらゆる縁(他物に繋がること)を離れているからだ。
不觀是菩提,離諸緣故;[VK0401041]
不行(有為の行為をしないこと)は菩提である、憶念(深い思い)がないからだ。
不行是菩提,無憶念故;[VK0401042]
断(断ち切ること)は菩提である、あらゆる見解を捨ててしまったからだ。
斷是菩提,捨諸見故;[VK0401043]
離(離れること)は菩提である、あらゆる妄想を離れているからだ。
離是菩提,離諸妄想故;[VK0401044]
障(覆うこと)は菩提である、あらゆる願い(欲求)を遮っているからだ。
障是菩提,障諸願故;[VK0401045]
不入(心に入る物事がないこと)は菩提である、欲する物事がないからだ。
不入是菩提,無貪著故;[VK0401046]
順(従うこと)は菩提である、真如に従っているからだ。
順是菩提,順於如故;[VK0401047]
住(とどまること)は菩提である、法性にとどまっているからだ。
住是菩提,住法性故;[VK0401048]
至(至ること)は菩提である、実相に至るからだ。
至是菩提,至實際故;[VK0401049]
不二は菩提である、思考・概念を離れているからだ。
不二是菩提,離意法故;[VK0401050]
平等は菩提である、虚空に等しいからだ。
等是菩提,等虛空故;[VK0401051]
無為は菩提である、生(生じること)・住・滅(滅すること)がないからだ。
無為是菩提,無生住滅故;[VK0401052]
知(知ること)は菩提である、衆生の心と行いを知っているからだ。
知是菩提,了眾生心行故;[VK0401053]
不会(集まらないこと)は菩提である、感覚が凝集しないからだ。
不會是菩提,諸入不會故;[VK0401054]
不合(結合しないこと)は菩提である、煩悩や習性を離れているからだ(色・声・香・味・触・法を合わせてから煩悩が起こる)。
不合是菩提,離煩惱習故;[VK0401055]
無處(ところがないこと)は菩提である、形・色がないからだ。
無處是菩提,無形色故;[VK0401056]
仮名は菩提である、名の本質は空であるからだ。
假名是菩提,名字空故。[VK0401057]
如化(幻の人の如し)は菩提である、取捨の心がないからだ。
如化是菩提,無取捨故;[VK0401058]
無乱(乱れることがないこと)は菩提である、心が常に落ち着いているからだ。
無亂是菩提,常自靜故;[VK0401059]
善寂(穏やか)は菩提である、本性は清浄であるからだ。
善寂是菩提,性清淨故;[VK0401060]
無取(取ることがないこと)は菩提である、攀縁(心が対象に向かって働くこと)を離れているからだ。
無取是菩提,離攀緣故;[VK0401061]
無異(異なることがないこと)は菩提である、諸法は平等であるからだ。
無異是菩提,諸法等故;[VK0401062]
無比(比べることがないこと)は菩提である、比べられる物事がないからだ。
無比是菩提,無可喻故;[VK0401063]
微妙は菩提である、諸法は不思議であるからだ。』
微妙是菩提,諸法難知故。』[VK0401064]
世尊様! 維摩詰様がこのご教示をお説きになった時、二百人の天人は無生法忍の境地に至りました。
世尊!維摩詰說是法時,二百天子得無生法忍。[VK0401065]
それゆえ、私はその御方を見舞うことができかねます。」
故我不任詣彼問疾。」[VK0401066]
【維摩経】菩薩品
弥勒菩薩
そこで、お釈迦様は弥勒菩薩(娑婆世界の次の仏になる菩薩)に言いました。
於是佛告彌勒菩薩:[VK0401001]
「お前が維摩詰を見舞いに行ってきなさい。」
「汝行詣維摩詰問疾。」[VK0401002]
弥勒菩薩はお釈迦様に語りました。
彌勒白佛言:[VK0401003]
「申し訳ございません。世尊様! 私はその御方を見舞うことができかねます。なぜかというと、
「世尊!我不堪任詣彼問疾。所以者何?[VK0401004]
かつて、私は兜率天の王及びその眷属たちに不退転境地の修行を解説してさしあげました。
憶念我昔為兜率天王及其眷屬,說不退轉地之行。[VK0401005]
その時、維摩詰様がお見えになり、私に話しかけられました。
時維摩詰來謂我言:[VK0401006]
『弥勒菩薩よ! あのさぁ、世尊様はお前に御授記(未来のことを保証すること)をくださり、
『彌勒!世尊授仁者記,[VK0401007]
お前が次の世に必ず阿耨多羅三藐三菩提(無上正等覚)を得るとおっしゃっただろう。
一生當得阿耨多羅三藐三菩提。[VK0401008]
では、お前のどの世がその御授記を得るのだろうか?
為用何生,得受記乎?[VK0401009]
過去世か? 現世か? それとも未来世か?
過去耶?未來耶?現在耶?[VK0401010]
もし過去世であれば、過去世はすでに消えてしまった。
若過去生,過去生已滅;[VK0401011]
もし未来世であれば、未来世にはまだ至っておらぬ。
若未來生,未來生未至;[VK0401012]
もし現世であれば、現世は常に変化してとどまっていないのだ。
若現在生,現在生無住。[VK0401013]
世尊様はおっしゃった。
如佛所說:[VK0401014]
『比丘たちよ! お前たちはいま同時に、生長していて・老いていて・滅しているのだ(新陳代謝する)。』
「比丘!汝今即時,亦生亦老亦滅。」[VK0401015]
もし無生(生まれることがないこと)で御授記を得たのであれば、無生はつまり正位(無為涅槃)であり、
若以無生得受記者,無生即是正位,[VK0401016]
正位では授記されることがなく、
於正位中,亦無受記,[VK0401017]
さらに阿耨多羅三藐三菩提を得ることもないのだ。
亦無得阿耨多羅三藐三菩提,[VK0401018]
弥勒はどの状態で御授記を得ただろうか?
云何彌勒受一生記乎?[VK0401019]
真如の出生で御授記を得ただろうか?
為從如生得受記耶?[VK0401020]
それとも真如の消滅で御授記を得ただろうか?
為從如滅得受記耶?[VK0401021]
もし真如の出生で御授記を得たのであれば、真如は生じることがないのだ。
若以如生得受記者,如無有生;[VK0401022]
もし真如の消滅で御授記を得たのであれば、真如は滅することがないのだ。
若以如滅得受記者,如無有滅。[VK0401023]
すべての衆生は皆真如であり、
一切眾生皆如也,[VK0401024]
すべての法もまた真如であり、
一切法亦如也,[VK0401025]
聖人も賢者もまた真如であり、
眾聖賢亦如也,[VK0401026]
弥勒もまた真如なのだ。
至於彌勒亦如也。[VK0401027]
もし弥勒が御授記を得たのであれば、すべての衆生もまた御授記を得たはずだ。なぜなら、
若彌勒得受記者,一切眾生亦應受記。所以者何?[VK0401028]
真如は不二(唯一・絶対。二元ではない)であり、異なることがないからだ。
夫如者不二不異,[VK0401029]
もし弥勒が阿耨多羅三藐三菩提を得たのであれば、すべての衆生もまた阿耨多羅三藐三菩提を得たはずだ。なぜなら、
若彌勒得阿耨多羅三藐三菩提者,一切眾生皆亦應得。所以者何?[VK0401030]
すべての衆生はもともと菩提(悟り)の本性を持っているからだ(衆生はもともと仏である)。
一切眾生即菩提相。[VK0401031]
もし弥勒が入滅する(涅槃に入ること)なら、すべての衆生もまた入滅するはずだ。なぜかを
若彌勒得滅度者,一切眾生亦應滅度。所以者何?[VK0401032]
諸如来様はご存じだ。『すべての衆生はもともと寂滅の境地にあり、それはつまり涅槃であり、さらに入滅することはないのだ。』
諸佛知一切眾生畢竟寂滅,即涅槃相,不復更滅。[VK0401033]
それゆえ、弥勒菩薩よ! 天人たちに不退転境地の修行を説くな。
是故,彌勒!無以此法誘諸天子,[VK0401034]
実は阿耨多羅三藐三菩提心を発する者がいない。
實無發阿耨多羅三藐三菩提心者,[VK0401035]
また、退転する者もいないのだ。弥勒菩薩よ!
亦無退者。彌勒![VK0401036]
まさに天人たちに菩提を区別する観念(得たこと・得ていないこと)を捨てさせるべきだ。なぜかというと、
當令此諸天子,捨於分別菩提之見。所以者何?[VK0401037]
身を通じて菩提を得ることはできぬ。
菩提者不可以身得,[VK0401038]
心を通じて菩提を得ることもできぬ(菩提は得られるものではない)。
不可以心得;[VK0401039]
寂滅は菩提である、(悟りの境地は)あらゆる相がないからだ。
寂滅是菩提,滅諸相故;[VK0401040]
不観(観察しないこと)は菩提である、あらゆる縁(他物に繋がること)を離れているからだ。
不觀是菩提,離諸緣故;[VK0401041]
不行(有為の行為をしないこと)は菩提である、憶念(深い思い)がないからだ。
不行是菩提,無憶念故;[VK0401042]
断(断ち切ること)は菩提である、あらゆる見解を捨ててしまったからだ。
斷是菩提,捨諸見故;[VK0401043]
離(離れること)は菩提である、あらゆる妄想を離れているからだ。
離是菩提,離諸妄想故;[VK0401044]
障(覆うこと)は菩提である、あらゆる願い(欲求)を遮っているからだ。
障是菩提,障諸願故;[VK0401045]
不入(心に入る物事がないこと)は菩提である、欲する物事がないからだ。
不入是菩提,無貪著故;[VK0401046]
順(従うこと)は菩提である、真如に従っているからだ。
順是菩提,順於如故;[VK0401047]
住(とどまること)は菩提である、法性にとどまっているからだ。
住是菩提,住法性故;[VK0401048]
至(至ること)は菩提である、実相に至るからだ。
至是菩提,至實際故;[VK0401049]
不二は菩提である、思考・概念を離れているからだ。
不二是菩提,離意法故;[VK0401050]
平等は菩提である、虚空に等しいからだ。
等是菩提,等虛空故;[VK0401051]
無為は菩提である、生(生じること)・住・滅(滅すること)がないからだ。
無為是菩提,無生住滅故;[VK0401052]
知(知ること)は菩提である、衆生の心と行いを知っているからだ。
知是菩提,了眾生心行故;[VK0401053]
不会(集まらないこと)は菩提である、感覚が凝集しないからだ。
不會是菩提,諸入不會故;[VK0401054]
不合(結合しないこと)は菩提である、煩悩や習性を離れているからだ(色・声・香・味・触・法を合わせてから煩悩が起こる)。
不合是菩提,離煩惱習故;[VK0401055]
無處(ところがないこと)は菩提である、形・色がないからだ。
無處是菩提,無形色故;[VK0401056]
仮名は菩提である、名の本質は空であるからだ。
假名是菩提,名字空故。[VK0401057]
如化(幻の人の如し)は菩提である、取捨の心がないからだ。
如化是菩提,無取捨故;[VK0401058]
無乱(乱れることがないこと)は菩提である、心が常に落ち着いているからだ。
無亂是菩提,常自靜故;[VK0401059]
善寂(穏やか)は菩提である、本性は清浄であるからだ。
善寂是菩提,性清淨故;[VK0401060]
無取(取ることがないこと)は菩提である、攀縁(心が対象に向かって働くこと)を離れているからだ。
無取是菩提,離攀緣故;[VK0401061]
無異(異なることがないこと)は菩提である、諸法は平等であるからだ。
無異是菩提,諸法等故;[VK0401062]
無比(比べることがないこと)は菩提である、比べられる物事がないからだ。
無比是菩提,無可喻故;[VK0401063]
微妙は菩提である、諸法は不思議であるからだ。』
微妙是菩提,諸法難知故。』[VK0401064]
世尊様! 維摩詰様がこのご教示をお説きになった時、二百人の天人は無生法忍の境地に至りました。
世尊!維摩詰說是法時,二百天子得無生法忍。[VK0401065]
それゆえ、私はその御方を見舞うことができかねます。」
故我不任詣彼問疾。」[VK0401066]