維摩詰の家庭

【維摩経ゆいまきょう】仏道品ぶつどうほん

ホーム　>　維摩経

　>　08.仏道品

　>　3.維摩詰の家庭と生活

　維ゆい摩ま詰きつの家庭と生活

その時、そこにいた普ふ現げん色しき身しんという名前の菩ぼ薩さつが、維ゆい摩ま詰きつに問いました。

爾時會中有菩薩，名普現色身，問維摩詰言：［VK0803001］

「居こ士じ様！　居こ士じ様のご両親・奥様・ご家族・ご眷けん属ぞく・

「居士！父母妻子、親戚眷屬、［VK0803002］

ご部族・ご友人はどなた様でしょうか？　

吏民知識，悉為是誰？［VK0803003］

下男下女、象・馬・車などはどこにございますか？」

奴婢僮僕、象馬車乘，皆何所在？」［VK0803004］

そこで、維ゆい摩ま詰きつは詩をもって答えました。

於是維摩詰以偈答曰：［VK0803005］

「智ち慧えは菩ぼ薩さつの母であり、方ほう便べんは菩ぼ薩さつの父であり、

「智度菩薩母，方便以為父，［VK0803006］

すべての衆しゅ生じょうの導どう師し（仏・菩ぼ薩さつ）は両者の結けつ合ごうから誕生する。

一切眾導師，無不由是生。［VK0803007］

法ほう喜きは妻であり、慈じ悲ひの心は娘であり、

法喜以為妻，慈悲心為女，［VK0803008］

善心と正直は息子であり、畢ひっ竟きょう空くう寂じゃく（すべてはもともと空くう寂じゃくである）は家である。

善心誠實男，畢竟空寂舍。［VK0803009］

弟子は眷けん属ぞくであり、思うまま弟子を済さい度どする。

弟子眾塵勞，隨意之所轉，［VK0803010］

三さん十じゅう七しち道どう品ほんは善ぜん知ち識しきであり、それを修めて等とう正しょう覚がく（最高の悟り）に達する。

道品善知識，由是成正覺。［VK0803011］

六波は羅ら蜜みつは仲間であり、四し摂しょう法ほうは芸げい妓ぎであり、

諸度法等侶，四攝為伎女，［VK0803012］

仏法の語句を歌い、それを音楽とする。

歌詠誦法言，以此為音樂。［VK0803013］

総そう持じは庭てい園えんであり、無む漏ろの法は林であり、

總持之園苑，無漏法林樹，［VK0803014］

七しち覚かく支しは清しょう浄じょうで綺麗な花であり、解げ脱だつの智ち慧え（空・無む相そう・無む作さく）は果物である。

覺意淨妙華，解脫智慧果。［VK0803015］

八はっ解げ脱だつの風呂には、禅ぜん定じょうの泉水が満ちていて、

八解之浴池，定水湛然滿，［VK0803016］

七浄（戒かい浄じょう・心しん浄じょう・見けん浄じょう・ 疑ぎ浄じょう・分ぶん別べつ道とう浄じょう・行ぎょう断だん知ち見けん浄じょう・断だん知ち見けん浄じょう）の花びらを水面に散らし、無垢な人はそこに入浴する。

布以七淨華，浴此無垢人。［VK0803017］

五神じん通つうは象馬であり、大だい乗じょうは車であり、

象馬五通馳，大乘以為車，［VK0803018］

一心に象馬の車を操り、八はっ正しょう道どうの道路を行く。

調御以一心，遊於八正路。［VK0803019］

三さん十じゅう二に相そうで容姿を正し、八はち十じゅう種しゅ好ごうで身を飾り、

相具以嚴容，眾好飾其姿，［VK0803020］

慙ざん愧きは上等の服であり、深しん心しんは華か麗れいな髪飾りである。

慚愧之上服，深心為華鬘。［VK0803021］

七聖財（七種類の徳とく目もく。信しん・ 戒かい・ 聞ぶん・ 捨しゃ・ 慧え・慚ざん・ 愧き）は財宝であり、それを衆しゅ生じょうに教授して善の利息を成長させる。

富有七財寶，教授以滋息，［VK0803022］

如にょ来らいのおっしゃるとおりに修行し、功く徳どくによって廻え向こうして衆しゅ生じょうの利益を求める。

如所說修行，迴向為大利。［VK0803023］

四禅（初禅・第二禅・第三禅・第四禅）は寝しん台だいであり、浄じょう命みょうのおかげで四禅の境きょう地ちに至る。

四禪為床座，從於淨命生，［VK0803024］

多た聞もんによって智ち慧えを成長させ、それを目を覚ます音楽とする。

多聞增智慧，以為自覺音。［VK0803025］

甘かん露ろの法（仏法）は食べ物であり、解げ脱だつの喜びは飲料であり、

甘露法之食，解脫味為漿，［VK0803026］

心を浄じょう化かすることは入浴であり、戒かい律りつは塗ず香こう（身に香を塗ること）である。

淨心以澡浴，戒品為塗香。［VK0803027］

煩ぼん悩のうの賊を滅ぼし、勇健（勇ましく健やか）で右に出る者がいない。

摧滅煩惱賊，勇健無能踰，［VK0803028］

四種の魔（煩惱魔・五陰魔・死魔・天魔）を降こう伏ふくさせ、道どう場じょうを建てて勝利の旗を揚げる。

降伏四種魔，勝幡建道場。［VK0803029］

すべては不ふ生しょう不ふ滅めつであると知っているが、衆しゅ生じょうのために転生し、

雖知無起滅，示彼故有生，［VK0803030］

諸国土を建て、太陽のように誰にでも見える。

悉現諸國土，如日無不見。［VK0803031］

十じっ方ぽうの無む量りょう億の如にょ来らい様を供く養ようし、諸如にょ来らい様と自身は区く別べつがないと思う。

供養於十方，無量億如來，諸佛及己身，無有分別想。［VK0803032］

諸仏国と衆しゅ生じょうは本ほん質しつが空であると知っているが、常に浄じょう土どを美化し、衆しゅ生じょうを教きょう化かする。

雖知諸佛國，及與眾生空，而常修淨土，教化於群生。［VK0803033］

種々の衆しゅ生じょうの姿、声と威い儀ぎに無む畏いの力を持っている菩ぼ薩さつは、一瞬で変身できる。

諸有眾生類，形聲及威儀，無畏力菩薩，一時能盡現。［VK0803034］

悪魔の行動を察知して皆に随ずい行し、そして、善の方ほう便べんと智ち慧えを運用して自じ在ざいに衆しゅ生じょうを救きゅう助じょする。

覺知眾魔事，而示隨其行，以善方便智，隨意皆能現。［VK0803035］

あるいは衆しゅ生じょうを教きょう化かするために、老い・病・死を現し、すべてが幻のようだと知っていて、無む碍げの境きょう地ちに至る。

或示老病死，成就諸群生，了知如幻化，通達無有礙；［VK0803036］

あるいは神しん通つう力りきを使って世界の破滅を現し、劫ごう火かが世界を焼き尽くし、天地さえすっかりなくなる。

或現劫盡燒，天地皆洞然，［VK0803037］

それによって、万物が常住だと思っている衆しゅ生じょうに、無む常じょうの理を悟らせる。

眾人有常想，照令知無常。［VK0803038］

無む数すう億の衆しゅ生じょうは共に菩ぼ薩さつを誘い、菩ぼ薩さつは同時に（分身を派遣し）それぞれの家を訪ねて皆を仏道に導くことができる。

無數億眾生，俱來請菩薩，一時到其舍，化令向佛道。［VK0803039］

さまざまな経書・呪術・禁術・工芸に通じていて、そして、それを利用して衆しゅ生じょうを益する。

經書禁呪術，工巧諸伎藝，盡現行此事，饒益諸群生。［VK0803040］

世間の種々の宗教に入って弟子になり、そして、その宗教の邪じゃ見けんを打だ破はして人々を正しょう道とうに導く。

世間眾道法，悉於中出家，因以解人惑，而不墮邪見。［VK0803041］

あるいは創世の神である梵ぼん天てんの王になり、太陽・月・天地を創造したり、水・火・風を起こしたりする。

或作日月天，梵王世界主，或時作地水，或復作風火。［VK0803042］

疫病が流行している時、菩ぼ薩さつは大地にさまざまな薬草を生長させ、

劫中有疾疫，現作諸藥草，［VK0803043］

それらの薬草を服用すれば、毒が散って病が治る。

若有服之者，除病消眾毒；［VK0803044］

飢き饉きんが起こる時、菩ぼ薩さつは出現して人々に食糧を施し、

劫中有飢饉，現身作飲食，［VK0803045］

まず人々の飢えとのどの渇きを癒し、その後、皆を仏道に導く。

先救彼飢渴，却以法語人；［VK0803046］

戦争が起こる時、菩ぼ薩さつは慈じ悲ひの心を起こし、人々に勧めて戦争を終結させる。

劫中有刀兵，為之起慈悲，化彼諸眾生，令住無諍地。［VK0803047］

もし大軍の対決が発生すれば、菩ぼ薩さつは大きな軍勢を率いて戦場に現れ、

若有大戰陣，立之以等力，菩薩現威勢，［VK0803048］

両軍を降参させ、和平を結ぶ。

降伏使和安。［VK0803049］

菩ぼ薩さつはあらゆる仏国の地獄へ行き、そこの罪人を励まして皆の苦痛を軽けい減げんさせる。

一切國土中，諸有地獄處，輒往到于彼，勉濟其苦惱；［VK0803050］

あらゆる世界中、畜ちく生しょうが互いに捕食するところに、菩ぼ薩さつは畜ちく生しょうの姿を現して皆を益する。

一切國土中，畜生相食噉，皆現生於彼，為之作利益。［VK0803051］

菩ぼ薩さつは五欲にとらわれている状じょう況きょうを現し、同時に禅ぜん定じょうに入っていて、

示受於五欲，亦復現行禪，［VK0803052］

それがどんな状じょう況きょうが分からないので、悪魔は困惑して弱点につけ込むことができぬ。

令魔心憒亂，不能得其便。［VK0803053］

蓮が火の海に生長することはとても珍しいことであり、

火中生蓮華，是可謂希有，［VK0803054］

菩ぼ薩さつが欲望にとらわれて禅ぜん定じょうに入ることも珍しいことである。

在欲而行禪，希有亦如是。［VK0803055］

あるいは好色な女のふりをして、好色な人を引き付け、

或現作婬女，引諸好色者，［VK0803056］

まず情じょう欲よくで人々を釣り、その後、人々を仏の智ち慧えに導く。

先以欲鉤牽，後令入佛智；［VK0803057］

あるいは城主になり、あるいは商人・国師・大臣になり、

或為邑中主，或作商人導，國師及大臣，［VK0803058］

衆しゅ生じょうを守しゅ護ごして皆を益する。

以祐利眾生。［VK0803059］

生活に困っている人々に無む尽じん蔵ぞうの財宝を見せ、

諸有貧窮者，現作無盡藏，［VK0803060］

それによって人々を感かん化かし、そして皆に菩ぼ提だい心しんを発させる。

因以勸導之，令發菩提心。［VK0803061］

傲ごう慢まんで自己中心的な人々に対して菩ぼ薩さつは大力士に変身し、

我心憍慢者，為現大力士，［VK0803062］

まず皆の驕きょう慢まんを除き、その後、皆を無上の道に導く。

消伏諸貢高，令住無上道。［VK0803063］

恐おそ怖に支配された人々に対して菩ぼ薩さつは皆を慰め、

其有恐懼眾，居前而慰安，［VK0803064］

まず皆に無む畏いを施し（心理治療をするあるいは恐おそ怖を除く）、その後、皆に道どう心しんを発させる。

先施以無畏，後令發道心。［VK0803065］

あるいは情じょう欲よくを離はなれ ている五通仙人（五種類の神じん通つうを習得した仙人）になり、人々に戒かい律りつ・忍にん辱にく・慈じ悲ひの修行を教える。

或現離婬欲，為五通仙人，開導諸群生，令住戒忍慈。［VK0803066］

お世話が要る人に対して菩ぼ薩さつは少年の召めし使つかいに変身し、

見須供事者，現為作僮僕，［VK0803067］

まずその人の需要を満足させ、その後、その人に道どう心しんを発させる。

既悅可其意，乃發以道心，［VK0803068］

衆しゅ生じょうはどんな条件でも仏道に入ることができ、

隨彼之所須，得入於佛道，［VK0803069］

菩ぼ薩さつは方ほう便べんの力を運用してすべての条件を満足させる。

以善方便力，皆能給足之。［VK0803070］

そのように、菩ぼ薩さつの道は無む量りょうであり、菩ぼ薩さつの仕事（衆しゅ生じょうを済さい度どすること）は無む崖がい（崖がない、つまり終点がない）であり、

如是道無量，所行無有涯，［VK0803071］

菩ぼ薩さつの智ち慧えは限界がなく、菩ぼ薩さつが導いた衆しゅ生じょうの数量は無む数すうなのだ。

智慧無邊際，度脫無數眾。［VK0803072］

すべての如にょ来らい様はたとえ無む量りょう億の劫の時間をかけても、菩ぼ薩さつの功く徳どくを褒め尽くすことができぬ。

假令一切佛，於無量億劫，讚歎其功德，猶尚不能盡。［VK0803073］

これらのことを聞いて、誰が菩ぼ提だい心しんを発しないでいられるだろうか？　

誰聞如是法，不發菩提心？［VK0803074］

劣等な人と愚かで頑がん固こな人をおいて他にいないのだ。」

除彼不肖人，癡冥無智者。」［VK0803075］


前のページ ≪

目次へ戻る

≫ 次のページ

Scroll to Top